2006年6月14日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙六日】サッカーW杯が開催されるドイツの主食は、ジャガイモである。ジャガイモの歴史をたどると原産地は、ペルーとボリビア国境付近で生活していたケチュア民族の国で、パパと呼ばれていた。征服者ピサロは、でん粉が豊富で活力源となるジャガイモを欧州へ持ち帰った。まず関心を示したのが、十七世紀のアイルランド。それから品種改良をしてイギリス種やオランダ種が生まれた。ドイツではフリードリッヒ大王が一七四〇年に主食とする布令を出した。ジャガイモ栽培に適した地方の争奪で、ドイツとオーストリアは一七七八年に戦争した。
以下はグラジアノ元農地改革院総裁の提言である。
日本の米のように、ドイツではジャガイモが聖域である。ドイツは今、ソーセージとビールでW杯の観戦が最大の関心事。ジャガイモは忘れられた。ブラジルの農家はサッカーどころではない落ち込みようである。ドイツの農家はサッカーを悠々と観戦、笑いが止まらない。
理由はドイツが世界一の生産を誇るバイオ・ディーゼルの消費激増だ。油脂植物の主役は、コウザというブラジルでは聞いたことがない植物。コウベ・マンテーガの親類と思えばよい。日本なら菜種の従兄弟だ。遺伝子組替え技術で油脂が豊富な新種が次々、発売されている。
遺伝子組替えが是か非か議論しているマヌケな国とはわけが違う。ドイツの農業は京都議定書以来、エネルギーの農業として大きく飛躍した。ブラジルの農業も、エネルギーの農業へ切り替えたらどうか。何をやっても、反応がのろいブラジルである。
ドイツがエネルギーの農業に力を入れたのは、他にも理由がある。世界貿易機関(WTO)の農業補助金廃止が原因である。米に超高率関税を課する日本の農家は、農業補助金廃止の洗礼を受けなければならない。米は例外だ、米は聖域だ、米は日本人の命などと寝言を言っていないで、抜本的な農業改革をやったらどうか。鎖国時代の発想を根本的に見直す時代が来たようだ。
ドイツでは、農地占拠運動(MST)はない。農業から他の職業へ転向するように、政府が指導したからだ。ドイツは砂糖大根がブラジルのさとうきびに負けることを先読みして、環境産業へ鞍替えした。畜産農家は五十年で一五〇万世帯から四〇万世帯へ減った。農業補助金廃止で、さらに農家の減少に拍車がかかる。これはEU全体の傾向ともいえる。
ブラジルは、ドイツに学ぶものが多い。連合軍は第二次大戦終了時、ドイツにジャガイモ・プランを立てた。工場を作らないで、ジャガイモを植えろというのだ。さらにドイツを東西に分割。すると東ドイツは、工業ばかりでなく農業までも衰退した。社会主義は都市ばかりでなく農村でも機能しなかった。
ブラジルのサッカー応援団がドイツ農業のジレンマまで観察してくれたら、ブラジルは鶏小屋論争ばかりしていないで、もっとマシな国になれる。ブラジル人にジャガイモを植えろとは命令しないから、安心してビールを飲みながらサッカーの応援をしてもよい。しかし、せっかくのチャンスだから視察したらよい。時間があったら、フリードリッヒ大王の墓も参詣せよ。墓碑にはいつも生のジャガイモが供えてある。ヒトラーのせいで分断されたドイツは、見事にトラウマを克服した。ベルリンは再建された。泣き言ばかりいうブラジルの農業生産者は、ドイツの農業を視察せよ。見事なもんだ。