サンタカタリーナ州にはドイツ人移民が作ったブルメナウという町がある。七〇年代以降、オクトーベルフェスト(ビール祭り)で町おこしをして有名になった▼欧州の演劇界で名声を得ながらも、栄華半ばにして突然ブラジルに移住し、生涯をその町で終えた実在のドイツ人女優Edith Gaertnerの謎の生涯を軸に、町の開拓期を描く映画「Outra Memoria」(Chico Faganello監督)が今年制作された。ブルメナウ歴史資料館秘蔵の貴重なドキュメンタリー映像を交え、同州の弱小独立プロダクションが制作した作品▼一八〇〇年代後半、初期のドイツ人入植者が現地にいたインディオを虐殺して切り拓いていったことや、第一次大戦後に祖国ナチスの影響を色濃く受けていたことなどが果敢にセリフにでてくる▼このような話は、日系の勝ち負け紛争に匹敵する話題であり、ドイツ系移住史では今でもタブーだ。映画化するのに、地元をはじめ相当な抵抗があっただろうことは容易に想像できる。それに逆らって、裏面史に真正面から取り組もうとする監督の姿勢には感心させられたが、そのわりにストーリーに深みがないのが残念。テーマの重厚さに、監督の力量が追いつかなかったか▼振り返れば、勝ち負け抗争では約二十人の死者がでたが、ドイツ系が南部諸州を開拓したときに殺された無数のインディオ、もしくは北米・南米諸国で開拓期に殺された先住民の数に比べれば、実にわずかなものだ――とも思えてくる。映画を見ながら、少なくとも世界史の中では、日本人のブラジル移住は相当に平和的であったと思えた。(深)
06/06/15