ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 中南米左傾化に2つの流れ=開放系と閉鎖系=国際社会はブラジル型に期待=マルクス理論の亡霊残る

中南米左傾化に2つの流れ=開放系と閉鎖系=国際社会はブラジル型に期待=マルクス理論の亡霊残る

2006年6月21日(水)

 【フォーリャ・デ・サンパウロ紙二十八日】メキシコ人社会学者のホルヘ・カスタニェード氏は、ラテン・アメリカ(以下LA)の左傾化に二つの流れがあるという。一つはブラジルやチリに見る左翼運動で、かつて過激派と思われたが試行錯誤の結果、近代化と開放化を成し遂げた。もう一つはベネズエラやボリビアに見るもので、閉鎖的で民族主義を狂信的にまで標榜している。国際社会は、ベネズエラ型に代わりブラジル型が左翼運動を完成することを願っている。
 左翼中道派はかつて、民主政治を基盤とした経済発展の息吹をLAに感じ取っていた。メキシコはそれを、北米共同市場(NAFTA)協定によって達成したといえる。
 同じ頃カルドーゾ前大統領は、まだ財務相在任中でルーラ氏と大統領選を競っていた。その十年後、ブラジルとメキシコの間にどんな違いが生じたか。まず当初は経済成長も政治の民主化も順調であったが、左傾化も浸透していた。
 いつしかLAは左傾化へ舵を取っていた。過去十五年間、米国の市場開放政策と民主化運動に逆行する現象も見せつけられた。ベネズエラのチャベス政権誕生に始まり、ルーラ政権やキルチネル政権、ウルグアイのヴァスケス政権、そしてボリビアのモラレス政権だ。
 左傾化はまだ続く。ペルーのガルシア氏やメキシコのオブラドール氏、ニカラグアのオルテガ氏。コロンビアだけが例外といえそうだ。しかし、よく観察すると左傾化に二つの流れがあることだ。
 一つは過去の失敗を認め、理性に立ち、近代化され、開放的で国際化へ向けた改革志向がある。もう一方はLAの民族主義に根ざした国粋主義者で、考え方が閉鎖的である。尖鋭的で融通性に欠ける。前者はソ連の崩壊で路線を修正したのに、後者はマルクス理論に殉じる信奉者である。
 同氏は暴力を否定する革命理論の三つの基礎条件を提示した。第一にLAは、ソ連の悪夢から開放されること。第二は、限界にある所得格差の深刻な問題を中道派に委ねる。一部特権階級に偏在する国家資産や権限、チャンスを中道派が管理する。第三は民主化の徹底である。
 一九八〇年代以降左翼政権が次々と誕生したが、チリを除いて三条件を守っていない。経済成長率は低く、貧困問題で紛糾している。所得格差や失業は未解決だし、国際競争力は向上しない。インフラ整備に至っては前政権よりも悪い。
 ソ連崩壊により左翼思想は軽視された。しかし、キューバでは誰もが予想したことは起きなかった。同じ思想から派生したグループが反対に政権まで獲得している。これは、ボルシェビキから生まれた新左翼といえそうだ。
 後者の大衆迎合と民族主義を旗印とする左翼も、チャベス大統領のように軍部の支援を背景に政権を獲得。キルチネル大統領はペロン派の地盤を握った。モラレス大統領は同志やコカ生産者の協力を得た。この派は何をしたかより、何を言ったかを重視する。どんな政治を行うかではなく、権力掌握に努力するのが後者の左翼だ。
 後者の左翼は、自国の政治よりも米国を挑発することに意義を感じる。ブッシュ米大統領は、これらの国々を貿易と移民政策で差別する。外交関係でも、親米と反米に色分けする。ブラジルは米国と通商条約を結んだチリの仲介で、伯米関係を修復することになると予想される。