2006年6月28日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙十日】世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド(新多角的貿易交渉)が終盤に入り、各国代表は自国の運命を決める重大岐路に立たされているとスカフサンパウロ州工業連盟(FIESP)会長が述べた。過去の多角貿易を想起すると、ブラジルの農産加工業は先進国の農産物保護制度に対して貸しがある。ブラジルは臥薪嘗胆の末、ようやく得た有利な立場であり、あわてて不利な合意をする必要はない。これまでのドーハ・ラウンドは、先進国の資金力と政治力に押しまくられてきた。
WTO加盟国の間で二〇〇一年に設けられたドーハ・ラウンドは、農業と工業の格差をなくすためであった。農業分野の市場開放は、ブラジルも発起人として参加したGATTO関税協定が締結された一九四七年に、すでに合意済みなのだ。だからブラジルには抗議する権利がある。
先進国代表は、まだ植民地時代の悪弊が抜けていない。特に米国とEUは国際貿易の五〇%を占め、年間一〇〇〇億ドルの農業補助金を四%の生産者に支払う。この補助金は国際貿易を経済的に歪め、農業に頼る低開発国を貧窮の果てに追いやる。世界では二〇億人が一日一ドル以下で生活をしている。それがフランスの牛は、毎日二ドルのエサを食べている。
ブラジルは世界一のコーヒー生産国だ。しかし、コーヒーの木を一本も植えていないドイツが世界一の輸出国である。それは、粉末コーヒーの輸入に超高率関税を課し、事実上加工品の輸入を阻止しているためである。
エタノールを輸出するため、米国には四四%の関税を払う。EUには五一%。ブロイラーを輸出するのに、カナダへは五〇五%の重税を払う。ノルウェーには八九三%。オレンジジュースは、フロリダ州の業者を保護するためアンチ・ダンピング法の枷を再々はめられた。
WTOのレミー専務理事は、最終的にドーハ・ラウンドの問題点を三点に絞った。一は米国の農業補助金、二はEUの農産物に対する超高率関税、三はG―20の工業製品に対する広範囲の関税軽減。
EUが関税上限を三八%、米国が補助金を六五%へ削減とFIESPへ打診した。市場開放とは程遠いものだ。補助金を減らして関税で仇を討ち、関税がダメなら補助金でという見え透いた魂胆である。
G―20案は、EUに対し関税の一律五〇%カット。米国に対し補助金の八〇%カット。これで先進国のエゴと野心を砕き、五分五分の商売ができると踏んだ。その後EUは関税を二六%に、米国は補助金を六〇%に譲歩した。
次回ワシントンとブリュッセルで開催されるドーハ・ラウンドでは、ブラジルが五〇年間飲まされた苦汁を返礼することができそうだ。これまでブラジルから原料を輸入し甘い汁を吸ってきた農産加工業は、借りを返すことになるらしい。