2006年6月30日(金)
「これで二国間協力の新しいページを開くことになった」。二十九日午前、ルーラ大統領は地上デジタル放送に関して、日本方式をベースとする規格を採用すると正式発表し、そう宣言した。大統領令に署名、竹中平蔵総務大臣出席のもと、覚書の調印式をプラナルト宮で行った。日本方式が採用されるのは世界でブラジルが初めて。国内でのデジタル放送関連市場は十年間で推定二百億ドルといわれ、今後、中南米諸国に広がることが期待されている。
式典に出席した関係者によれば、大統領と竹中大臣が署名した後、エリオ・コスタ通信大臣は冒頭、「W杯で4対1で勝って申し訳ありませんでした」と語って笑いを誘った。
「この方式なら貧しい人にも手が届く。すべてのブラジル人を対象にしたものだ」と高らかに宣言。新方式のテレビを買わなくても、百レアル以下と推定されるコンバーターを付けただけで視聴が可能になるとの見通しを語り、「私たちは上手なサインプレーでゴールを決めた」と自賛した。
共同通信によれば、竹中総務大臣は「(日本方式採用は)ブラジルの産業経済発展に貢献し、ブラジル国民の利便性の向上に役立つと確信している」と述べた。
「日本はW杯では負けたが、デジタル方式ではWIN・WIN(互恵)関係を作れる」との意気込みにくわえ、「日本は約束を必ず守る」と力強く語った。
ルーラ大統領は「ブラジルでテレビは、多くの場合、唯一の娯楽であり、多くの知識への入り口を意味する」とし、「この方式採用は、社会的にも政治的にも大きな一歩である」と位置付けた。
さらに「協力関係強化を通じて、両国のパートナーシップが継続的なものとなることを期待する」と将来へ向けた強い思いを表明した。
ブラジル側からはジウマ・ロウセフ官房長官、セルジオ・レゼンデ科学技術大臣、ルイス・フルラン開発大臣、レナン・カリェイロス上院議長、アウド・レベーロ下院議長ら錚々たるメンバーが列席。
今回調印されたのは、四月に東京で交わされた「日本方式を基礎とするデジタルTVでのブラジル方式の実施および、それに関連したブラジル電気電子産業の発展にかかわる協力に関する日本とブラジル両国政府の間の覚書」の実施要綱。
それによれば、全伯への普及には七年、関連技術の完全移植に十年間を想定している。正式発表の一カ月後から両政府による共同作業部会を設置し、技術的な詰めをすることになった。
まずはサンパウロなどで試験放送を始め、徐々に全国へ広げていく。新技術により新チャンネルができることになり、教育、市民、文化、政権などの分野の公共放送が行われる予定。
日欧米の三勢力が激しい売り込み合戦を行ってきたが、携帯電話でもテレビ放送を見ることができる日本方式の技術の高さが採用の理由となったようだ。
竹中大臣は二十九日午後、サンパウロ市に向け出発し、八時ごろ、市内ホテルで和歌山県人会や県連などの日系団体関係者と十分程度の懇談をする。