2006年7月1日(土)
ブラジル日本語センター(谷広海理事長)は、デカセギ向けの短期日本語講座「就労者向け日本語速成塾」の開講に向け、準備を進めている。このほど、同講座のための教員育成が計画され、講座に関しての詳細が決まりつつある。日本から帰伯した谷理事長に話を聞いた。
昨年からセンターは講座のために専用の教科書、副教材の開発を行ってきた。七月に、日本語を全く話せないデカセギ予定者三人を対象に試験的な講座を実施。受講者は「言葉だけでなく、事前に文化の違いについても概略を知っておくことで、日本での生活の不安を緩和する事ができた」という(〇五年八月二十三日既報)。
その後も継続して教材内容の吟味を進めるとともに、教師向けの指導講座の準備や講座開講資金の獲得に奔走。日本政府関係者やブラジル日系社会に対して、出発前の日本語学習の必要性を訴えてきた。
速成塾はセンターが開設するのではなく、同講座用の研修を受けた教師(認定講師)がそれぞれに開講。個人塾のような形式をとることで、受講者に合わせた授業を展開する。
またブラジル各地で教室を開くことから、受講者は「住んでいる所で、働きながら日本語を覚えて出発する」ことが可能になるという。
現在、認定講師養成のために指導講座の調整を進め、春頃(九月~十一月)には地方から教師を呼び、研修を始める予定だ。多くの教師が幼少年を対象に日本語を教えているために、指導講座では日本就労者に特化した教授法を伝授し、百二十人の教師養成を目指す。
コース内容は会話を中心とした基本的な日本語。週三回三ヵ月九十時間、予復習二百四十時間の授業を行う。受講者の個人負担は三カ月分と教材費で四百ドル。センターによれば「日本での四日分の給与に相当する」。ブラジルの銀行からの融資を受け、日本での就労を始めてからの分割払いとする。
「割高ではあるものの、終了時にはセンターが修了書を発行し、ビザ取得などに有効になれば」と谷理事長は話した。
講座の実質的な内容が固まっていく中で、まだ決まっていないのが資金面の話。教材開発費や専任講師の養成、認定講師の養成などに約五千万円を必要としている。
今年五月、谷理事長は訪日した際に、西林万寿夫在サンパウロ総領事や中南米担当課長らと面会。資金提供を訴えたが「現在は百周年事業などもあるので、政府からの援助を行うのは難しい」と承諾は得られなかった。
「デカセギを送り出している斡旋業者にも働きかけ、日本語の必要性を説いていけばいい。業者に対して訴える時には総領事館も協力するから、という話でした」と谷理事長は少し残念そう。
その代わり、日本のNPO法人(非営利団体)に対する免税処置を利用することを外務省から勧められたため、その制度を利用し資金を集める見通しだ。谷理事長は「外務省の調査費などから少しでももらえたらいい。まあ、大丈夫ですよ」と大きく構えていた。
また同時に、ビザ取得に日本語能力を考慮する手続を取り入れるよう、担当官と話をしてきた。「ビザに関する法務省の法整備を待つには時間がかかる。発行の実施機関として外務省に動いて欲しい」とその思いを語る。
入管行政の改革を検討している法務省プロジェクトチームの座長、河野太郎法務副大臣が近くまとめる改革案で、日系人の在留条件に「定職と日本語能力」を盛り込むと言明したこと(〇六年六月一日既報)も追い風になる。
「サンパウロにいる日系人で問題を起こす人はほとんどいないのに、在日ブラジル人三十万人のうち、子供を含めた千人弱が刑務所に入っている」と在日ブラジル人の実状を話し、「そのほとんどが日本語のできない人だ。日本語ができないために損を被っている人が多い。日本に行って働き出せば、言葉のために十分な時間を割く余裕もなくなるだろう。ぜひ少しの日本語くらいは覚えていってほしい」と離伯前の日本語学習を訴える。
デカセギ者が長く日本に滞在するようになっている現状を考えれば、日本語の能力は一時のためでなく、その後も長く役立てることができるという。
「今年中には開講したい」と谷理事長。同講座が始まれば、多くのデカセギ者にとって朗報となる。
また、講座の開設は、社会的地位や収入の低さに悩む日本語教師の地位向上や副収入につながるなど、日本語教師の待遇改善、日本語教育普及に大きく寄与することになる。