2006年7月4日(火)
移民の扱いをめぐって、世界の大国が神経を尖らせている。フランスでは昨年、アラブ・アフリカ系青年たちによる暴動が発生。アメリカでは先ごろ、不法移民への規制強化に対し、ヒスパニック系が抗議行動を展開した。多くの民族を、受け入れて形成されたブラジル。その立場上、移民問題を見過ごすことはできない。政府は、新外国人法の最終修正案を作成中。緊急案件として、今年中に国会を通過させたい考え。基本的人権の視点から、外国人労働者を捉えた内容になる見込み。現行法が八〇年に発効後、個人投資家や学者など一部の外国人について、既に永住権取得要件が緩和されている。規制強化の傾向を見せる、欧州とは対照的かもしれない。ただ失業率が約九%に達し、国内労働者の保護も課題だ。すべての外国人に、門戸を広く開けるという姿勢ではない。ブラジルの移民政策を探ってみた。全十回。
〇五年九月。北パラナの町アラポンガスで、濃霧のためにバスが横転した。乗客三人が死亡し、五十一人がけがをした。十人は生命の危険にさらされた。
フォーリャ紙によれば、四十四席の座席数に六十人が乗り込んだ。シートベルトがついていないなど、最低限の安全対策も講じられていなかった。
死傷者は同市とアプカラナの病院に運ばれた。少なくとも、軽傷だった五人がアラポンガスの病院から逃走した。
運転手以外、すべて不法法移民で警察の摘発を恐れたからだ。当局は病院に人員を配置。ものものしい雰囲気が漂った。
一人当たりの国内総生産(〇五年、小数点以下切り捨て)は、ブラジルが四千百二十三ドル。これに対して、ボリビアが千百四十六ドルで、ペルーが二千四百八十四ドル。周辺の貧困国からみれば、ブラジルは、天国のような国だ。
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パラグアイのエステからパラナ川を渡って、フォス・ド・イグアスーに入ってくる密入国者は後を絶たない。一説には、一日に七十人がその危険を冒すとも言われる。
「友情の橋は混沌とした状態なんだ」。
フォス・ド・イグアスー連邦警察署移民局のジェラルド・エウスタッキオ・ダ・コンセイソン局長は、苦渋の思いを滲ませてメールの文句をつづった。
国境警備の実態について質問を送信した、六月末のその日、同局は給与の調整を求めてストに突入した。コンセイソン局長が同署に赴任して二年半。すぐに返信がきたところをみると、よほど、頭を痛めているのだろうか。
アルゼンチン側は、出入国の管理が厳しいので平穏だ。パラグアイ側は構造的な問題を抱えているという。
徒歩、オートバイ、タクシー、ヴァン、バス……。エステとイグアスーを結ぶ友情の橋は、人の往来が毎日激しい。治安維持や麻薬・密輸・武器の取り締りなどの仕事もこなす連警。人員不足で、移民のコントロールに手が回りきれない。
「きちんと管理できているのは、(移住関係の資料収集や手続きのために)署にくる外国人だけ。今の体制は適切ではない」。
前述したバスの横転事故について、管轄外のため明言を避けた。
「最近はペルーやボリビアからの不法移民が増加。特赦を得られると期待し、危険を冒している。新外国人法が発効する前に、特赦が承認されるらしいんだ」。
不法移民の背後に、犯罪組織がからんでいるともいわれ、警察当局もその存在を認識している。組織との衝突はほとんどない。違法性を立証することが困難だからだ。
政府は今年下半期に、移民コントロールについて、新システムを導入する考え。全国の連警で訓練が重ねられている。
「友情の橋」を監視するため、イグアスーで国税庁が大規模な施設を建設中だ。コンセイソン部長は切ない願いを託す。
「密輸品や不法移民の流入を防止することができるのでは」。
(つづく、古杉征己記者)