2006年7月12日(水)
【エスタード・デ・サンパウロ紙六月七日】世界貿易機関(WTO)新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の決着に向けて七日、実務者レベルの詰めに入り白兵戦が展開された。最終的には多国籍企業を配下に従えるメジャーだけを利すると、国際貿易研究所(IKONE)のサワヤ・ジャンク所長は推測する。
いつも甘い汁を吸うメジャーのシステムを人々は知らな過ぎる。多国籍企業を先兵とするメジャーは、いつも高率関税の過保護を受ける。例えば、ブラジルの自動車会社。まず三五%の輸入関税で外車から守られ、これで六〇%の自家製品は安泰である。
多国籍企業は株主の配当を優先し、市場開放や自由化は問題にしていない。政府が市場開放と完全自由化を実施するなら、多国籍企業は株主に高率配当ができる国へ、生産拠点を移せる身軽さがある。
市場開放と自由化で振り回されるのは、生産拠点の移動などできない地元の生産者、つまり農業生産者や地場メーカーである。多国籍企業にとって自由化などどうでもよいのだ。WTO会議ではロビイストの強弱がとやかくいわれるが、そんなことは多国籍にとって問題ではない。
三五六〇億ドルの補助金を貰っていた経済大国日本の百姓や米国の農家は、荒波に翻弄される犠牲者の仲間に入る。ドーハ・ラウンドは保護の垣根を除こうとしている。新多角的貿易交渉の勝利者は、これら弱小生産者に対し生殺与奪の権を持つ多国籍企業なのだ。
WTOでブラジルの要求が通り、農産物の補助金制度が廃止され農産物自由化がかなっても、多国籍企業にとって関係のないこと。多国籍企業にとって不利な事態となれば、投資を中止するだけなのだ。
多国籍企業が問題にする貿易の焦点は関税率である。EUや中国は大豆の原料輸入に関税を撤廃した。しかし、大豆油と大豆粕には高率関税を課し、生産国の加工をけん制したため、搾油工場を閉鎖した多国籍企業がある。アルゼンチンは原料輸出に輸出税を課している。
このジレンマ克服のため米国へ進出をしたのが、製鉄とオレンジ・ジュース。米国の輸入障壁が下がらないので、障壁を乗り越えたのだ。この場合、ブラジルにとってGDP(国内総生産)にも雇用創出にも何らメリットはない。
大手企業は、外的要因によって保護貿易が変化すると思っている。保護貿易は、国際金融の資金移動次第で有利にも不利にもなるからだ。要は、資本投下をする国の資金コストによる。経営者は、国内投資と外国投資とどっちが有利か比較して投資先を決める。保護貿易とは関税率云々ではないのだ。
農業生産者の場合、より有利な条件を求めて国境を越えた前例はまだない。これまで農業補助金は国内問題と考えられた。補助金で過保護を受けた農業生産者は、補助金が死活問題であるから継続のために徹頭徹尾抵抗する。だが、その時代はドーハ・ラウンドの決着で終わった。
補助金廃止と自由化で笑うのは、営農資金を持つ大農場主だけという見方がある。中小生産者は苦境に立たされている。市場開放と自由化が影響を及ぼすのは、生産者だけでなく農村労働者も波を被る。それはブラジルだけでなく、世界の農業生産者と農村労働者も同じ立場に立つ。
だから市場開放はブラジルだけの悲願ではない。先進国の農業生産者も、同じ状況に立つ。だからドーハ・ラウンドが結実しても、何かが起きるわけでもない。ただ以前より少し良くなるだけで、鬼の首を取ったわけではない。