2006年7月14日(金)
【クリチーバ発】この舞台を踏むためにお稽古しています――。関係者が練習の成果を披露する、年に一度の晴れ舞台、第四十五回パラナ民族芸能祭に十日、地元日系団体を代表し、クリチーバ日伯文化援護協会(山脇ジョルジ会長)が参加、約千五百人の観客が〃ニッポン〃を堪能した。州政府、州文化局、グアイーラ劇場、パラナ民族交流協会(AINTEPAR)の共催。民舞、コーラス、若年層を中心に構成される太鼓、よさこいソーランが会場を沸かせた。花柳龍千多さんの門下生、約二十人の艶姿、九年連続友情出演している丹下セツ子さんの華麗な立ち回りには、会場からため息が漏れた。
「特に着物には気を使い、去年より良かったと言われる舞台作りを目指しています」と語る花柳龍千多さんは、同文援協舞踊部を十六年間指導してきた。
週二回、計八時間は稽古に汗を流すという部員は子供十一人を含め二十一人。
「踊りが本当に大好き。やっぱり血かしら」と笑うのは門下生の一人、山田智恵子さん(二世、59)。踊りの好きだった母親と娘、孫の女四代で舞台に立ちたい―、という思いから三年前、稽古を始めた。
母親は他界、願いが叶うことはなかったが、以来踊りの魅力に取り付かれてしまったという。
「ここの舞台に上がるのは二回目。緊張してます」と舞台前の楽屋で話した。
化粧、衣装は、サンパウロからかけつけた花柳龍珠、龍富貴さんが担当。華やかな舞台を支える。
日本舞踊を始めて半世紀の山本鉄子さん(72)は、「龍千多先生に習い初めてとても上達した。この舞台のために、一生懸命お稽古してるんです」
パラナ州屈指のグアイーラ劇場という檜舞台の出場権を今回得たのは、イタリア、ポーランド、ウクライナ、ギリシャ、ドイツ、スペインなど十四の団体。今月一日から十一日までの開催期間、それぞれが各民族の夜を演出した。
日系団体はクリチーバ日本民謡保存会の第一回から連続参加、独特の存在感を見せている。
「この芸能祭にでるのは本当に大変」。毎月行われる主催団体の会合に出席、交渉役を受け持つ大嶋裕一・文援協副会長はいう。 「入場券を買った人が会場に足を運ばなければ、減点対象になるんです」。来場者数も選考基準。出場権を失えば、同劇場内の小さな舞台へと格下げとなる。
各コロニアの芸のレベルとチームワークが一年に一回試される〃挑戦型民族祭典〃だ。
午後八時半。司会の田丸ラウラさん(パラナ連邦大学日本語教師)が説明する日本移民の歴史に耳を傾け、静まりかえった会場。
ニプソン楽団の演奏開始でエンジ色の分厚い緞帳が開く。たっぷりと照明を浴びた桜と垂れ幕がかかる舞台に色鮮やかな着物に身を包んだ出場者らが登場、「晴れ姿浪花舞踊」を披露。会場からは拍手が巻き起こった。
あかべこ太鼓、子供たちの舞踊に続き、井上祐見さんが「ふたりの大漁節」で特別出演。こぶしをきかせた迫力の歌声が共演の踊りに絡まった。
可愛らしい浴衣姿で童謡を歌った純真学園の子供たちに大きな拍手が送られ、若いパワー溢れるよさこいソーランで一部は幕。
赤と黒の勇壮なハッピ姿で登場した若葉太鼓とあかべこ会の合奏、「ブラジル太鼓ばやし」で二部が開幕、舞踊「相川音頭」「佐渡の恋唄」、文援協民舞愛好会の十六人による「みんなで音頭」、ひまわりを模した飾りを手にした子供たちの「花の音頭」も会場を沸かせた。
テンポ良く進んだ舞台は丹下セツ子さんの登場で雰囲気をガラリと変えた。
「関東流れ唄」で平松定俊さん(二世、59、元文援協会長)らと迫力の殺陣を演じたあとに踊り出た龍千多さんと円熟の絡みを見せ、芸の粋を体現した。
生長の家のコーラスによる「四季の歌」「さくらさくら」のあと、「あんたの花道」で出演者総勢百人が総出演。
ブラジルカラーの着物に身を包んだ出演者、丹下さんの白、龍千多さんの赤で日伯友好色に染まった舞台は、万雷の拍手が鳴り響くなか、大団円を迎えた。
コーラスでも自慢の喉を披露した笹谷聖子さん(文援協日本語講座校長)は、第一回にも出演した。「みんな頑張った。毎年違うことに挑戦しているし、年々良くなってると思う」
北海道協会・はまなす会(水野誠子会長)の会員八人も〃追っかけツアー〃で会場に姿を見せた。龍千多さんの最高齢門下生でもある安梅マサさん(89)は「全部良かった」としっかりと頷いた。
衣装を換えること三回、四度の舞台を踏んだ文援協舞踊部の林ドラリッセ雅子部長は、「これからまた来年の練習です」と頬を紅潮させ、最高の笑顔を見せていた。