ニッケイ新聞 2006年7月20日付け
三カ月ごとにビザを延長し、そのたびに約二百レアルの手数料──。
だるま塾(サンパウロ市ラッパ区)の森脇礼之校主は先ごろ、裁判所からの通知をみて吃驚した。
同校主は留学という形で、日本の大学生らを学生ビザで受け入れ、日本語教師として、サンパウロ州内の日本語学校に送り込んで約二十年になる。ビザの延長に、注文がつけられたのは初めてのことだった。
「本当に困っているんですよ。連邦警察に直談判にいこうと考えています。ビザをとるのも、年々、厳しくなっていて、今は二年が精一杯。ここに残りたい人が、あきらめて帰ってしまうんです」。
この学生は二年のビザで入国。ミナス・ジェライス州内に居住している。州都ベロ・オリゾンテ市で必要書類などをそろえ、サンパウロの連邦警察に届けた。
森脇さん個人が身元引受人になっている以上、サンパウロで、手続きを進める必要がある。「書類の証明印がほかの州だったからかなあ」。
いつも一年延長してもらえるはずが、三カ月でしかなかった。
「三カ後に申請するとき、また手数料がかかり、どういう状況になっているのか全く分からない」と不平をぶつける。
だるま塾の制度で、これまで約百十人が一定期間ブラジルに滞在。留学・研修経験を、就職や仕事に生かしているOBも少なくない。
もっとも危惧しているのは、政府が締め付けを強化、制度の存続に関わっていくことだ。
ビザがなかなかとれない──。移民支援団体「SPM」のロベルヴァル・フレイレさん(51)によれば、ビザ取得に悩んでいるのは日系ばかりではなさそう。「日系コロニアで、ドクメント取得の支援をする団体はあるんでしょうか?」
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「これから、外国から移民を入れて奥地を開拓するということはまずない。いわゆる従来の移民政策は終わった。移民をコントロールする時代が続いていくと思う」。
オダイール・パイヴァバ・パウリスタ州立大学人文科学科教授の見解によれば、移民受け入れに対して政府の姿勢は消極的だ。
国内産業を支えていくのに十分な人口を、ブラジルは持っているということだろう。ただ実利主義といわれる、ブラジルの外交政策。国の発展につながるなら、外国人の力に頼るとも考えられる。
フレイレさんは「外国人法は一般的なもの。これから、二国間協定で個々の場合を規定していくのでは」と予測する。
ブラジル政府はボリビアだけでなく、近くアルゼンチン、ウルグアイとも二国間協定を締結する方向で調整を進めている。両国内の不法移民を合法化。統合を進めていくのだという。
とすれば協定いかんによって、特定の外国人の入国が容易になるのだろうか。ただ近隣諸国とそのほかの国では、対応が異なるはず。
今井真治さんは「外国人を受け入れるといっても、誰でもいいわけでない。二国間協定を結ぶなら、しっかりした計画と目的が欠かせない」と語る。
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「日本人はベン・ヴィンド(大歓迎)だ」。
対日関係について問うと、移民審議会のニウトン・フレイタス会長は、そうすらりと言ってのけた。
リップ・サービスもあるだろう。が、日本はブラジルに魅力を感じているのか、と逆に質問しているともとれた。
デジタルテレビの日本式採用で日伯関係の新時代が幕開けしたとも言え、二年後に移民百周年が控える。
新しい血が入らないと、コロニアは崩壊の一途だ。一大祭典を機に、何らかの形で、両国間の交流が活発化、人の移動を容易にするプロジェクトができないものだろうか。
(おわり、古杉征己記者)