【エスタード・デ・サンパウロ紙八日】ベネズエラのメルコスル加盟で、檻の中に閉じ込められた犬と猿は四匹から五匹になった。前から仲の良くなかった犬と猿は、地政学的見方をするなら檻の中で勢力争いに没頭する。これから棚の上のボタモチを巡って、奪い合いが始まる。
ルーラ大統領は、波乱含みのメルコスルに感づいているらしい。チャベス大統領の出しゃばり振りに、警戒感を見せたからだ。アルゼンチンのキルチネル大統領とチャベス大統領は、蜜月時代にある。
これでベネズエラはメルコスルのいかなる通商会議や使節団などにも参加し、決議に対して意見を述べる資格ができた。チャベス大統領に振り回されないために、ここで国家と政府の違いを明確にしておく必要がある。
ベネズエラの参加でメルコスルは、世間的には経済と政治の重みを増した。まず面積は一三〇〇万平方キロ。人口は二億五〇〇〇万人、国内総生産(GDP)は一兆ドル。貿易黒字は三億一〇〇〇万ドルというプロフィールだ。
さらに原油を日産二六〇万バレル輸出し、OPEC(石油輸出国機構)の中で第三番目の地位を占める。石油の埋蔵量は八〇〇億バレルとされる。ベネズエラのお陰でメルコスルは一躍世界のエネルギー業界から脚光を浴びる。
しかし、メルコスル内のエネルギー戦略は、ブラジルだけでは決められなくなる。最初の障壁はチャベス政権の判断基準だ。基準はベネズエラ国家ではなく、チャベス大統領そのものである。この物差しをメルコスルの中にも持ち込むからだ。
ベネズエラは、生産する原油の大部分を米国へ輸出する。チャベス大統領はいつでも対米通商協定を一蹴する用意があると示唆する。この世界最大の消費市場を反故にするつもりでいる。しかしブラジルは、そんなものに付き合うわけにいかない。
チャベス大統領は、オイル・ダラーでメルコスル内の求心力を買おうとしている。誰も相手にしないアルゼンチンのボロ国債を購入し、今度はパラグアイからイタイプー株を入手し、ケンカまで買うつもりだ。
メルコスルと折衝中のEU通商代表は、交渉はさらに難航するとみている。ベネズエラのメルコスル加盟でブラジルも一目置かれることは歓迎すべきだが、地政学的配慮をわきまえてもらわないと、手放しでは喜べない。
5匹になった犬と猿=メルコスルで勢力争い始まる
2006年7月26日付け