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《記者の眼》 動き始めた日伯新世紀=デカセギ子弟教育基金創設へ

2006年8月3日付け

 日本、ブラジルの識者や経済人らが両国間の交流促進策について中長期ビジョンで話し合った「日伯21世紀協議会」の提言に関して、さっそく日本側では動きが出てきた。
 二日付け読売新聞によれば、日本政府は一日、不登校や非行が急増しているデカセギ子弟の教育を支援する基金を、〇七年に創設する方針を決めた。
 同提言の第五章「『ニッケイ』日伯の架け橋」の五項には、「在日ブラジル人子弟の教育を支援するための基金を創立するべきである。この基金は奨学金の提供のほか、通信教育によるポ語教育、ポ語による教材作成、教科書配布などに使われる」とある。
 今回の日本政府の決定は、まさにその支援内容を踏襲したものだ。
 基金の財源としては、ブラジル人集住地域の愛知県、静岡県、群馬県にあるデカセギ雇用企業に呼びかけて寄付金を募る。百周年の〇八年から支援実施を目指すという。
 ポ語教材や教科書の提供に関しては、県連(松尾治会長)はじめ、文化教育連帯協会(吉岡黎明会長)や在日外国人就労者共済会(野口重雄理事長)らも贈ったことがあり、その送料負担が常に問題としてあがっていた。運輸関連企業の協力は欠かせないものとなるだろう。
 昨年末の統計で、在日ブラジル人はついに三十万人を超えた。その子弟の多くは日本の小中学校の授業についていけず、落ちこぼれて不登校になったり、非行に走る例があとをたたない。原因の大きな部分が「言葉の壁」だといわれる。読売新聞は「不登校児童の割合が『五人に一人』との民間団体のデータもある」と報じる。
 同提言最終章(六章)四項には「募金により資金を集め、交流年及びそれ以降における記念行事の実施、両国間の人の交流への支援、中長期展望に立った在日ブラジル人の教育への支援などに活用する」とあり、教育支援だけでなく、さらに大きな趣旨の文化交流基金を創設するアイデアも書かれている。
 「日伯両国政府は、在日ブラジル人子弟の進学状況の実態を調査した上で、在日ブラジル人学校への支援、公立学校における教育環境の整備などにより地方自治体と協力して、在日ブラジル人子弟が学びやすい環境を整備するべきである」(五章四項)
 ブラジルに帰国することを前提とした場合、ポ語教育は重要な課題だ。ただし、中長期展望に立ったとき、半数以上は日本に残るとの推測もあり、同じくらいに日本語教育への取り込みも問題になる。
 「日本の学校でブラジル人の青少年を教えることができるバイリンガルの教師の養成を促進する」(五章三項)とあり、ブラジル日本語センター(谷広海理事長)や赤間学院、松柏大志万学院など、多くの日系ブラジル公認校が蓄積してきたバイリンガル教育のノウハウが日本で活かされる機会かもしれない。
 このように義務教育の小中学校レベルはもちろん、高校以降の高等教育、専門教育への受け入れ促進も提言では触れる。
 最終章三項には「日本在住のブラジル人に対する大学及び大学卒レベルの奨学制度を拡大する。特に、〇八年の日伯交流年から五年間に、毎年、双方の国から百人ずつ青年を交流させることが望まれる」とある。
 このように、提言には教育に多くが割かれており、政府レベルでも日系子弟の将来を愁う機運が高まっていることがうかがわれる。日系社会側としても他人事にせず可能な協力を申し出て、両側から支援していく姿勢が望まれているのではないだろうか
         (深)