ニッケイ新聞 2006年8月15日付け
【中国新聞】南米に住む被爆者の健康診断のため、広島県が十月に予定している医師団派遣が、南米で最も被爆者が多いブラジルで見送られることがさきごろ分かった。国の在外被爆者支援策の一環として取り組んできたが、今年春、在ブラジル原爆被爆者協会(森田隆会長)から県に「断り」が入った。背景には、国の支援策が現地の実態とかみ合っていないことへの反発がある。
南米の被爆者を対象にした国の援護事業は、医療助成と派遣医師団による健診、帰国治療などが柱。このうち、医療助成は、被爆者が民間保険会社に支払った保険料を年十三万円を上限に助成する仕組みとなっている。
同協会の渡辺淳子理事によると、保険に入っていない場合は助成対象にならず、高齢化した被爆者が新たに保険に入るには年四十万円程度が必要になる。負担が重く、助成が受けられないケースが目立つという。
米国や韓国では医療費が助成対象になっているため、こうした不平等は生じていない。現在、ブラジルには被爆者が約百五十人いるといわれるが、渡辺理事は「泣いている被爆者が大勢いる」と指摘する。
さらに、健診についても(1)その後の治療は自己負担となる(2)帰国治療も病弱な高齢者にとっては渡航が難しい―などの理由から、この春の例会で医師団派遣を断ることを決めた。渡辺理事は「事業費を現地医療が充実する基金創設に回すなど、実態に合うように見直してほしい」と訴える。
南米健診は、広島県が中心になり、独自の支援策として一九八五年から隔年で実施し、二〇〇二年度から国の補助事業になった。委託を受ける県は「現地の協力なしに医師派遣は不可能」として、ブラジルを除く、アルゼンチンやボリビアなど四カ国への派遣を固めた。
厚生労働省健康局総務課は「今後も健診を続けたいので戸惑っている」と説明。支援策への反発については「現地の状況や要望を把握している段階」としている。
広島県や広島市などは七月、国に提出した被爆者援護対策の要望書に、在外被爆者の現地の実情に即した制度への改善を新たに盛り込んでいる。