ニッケイ新聞 2006年8月16日付け
ブラジル日本商工会議所(田中信会頭)主催の「業種別部会長シンポジウム」が三日、サンパウロ市内のホテルで開催され、十一の部会の代表者が「2006年度上半期の回顧と下半期の展望」を共通テーマに発表をおこなった。シンポジウム開催に先立ち西林万寿夫サンパウロ総領事があいさつ。ブラジルのデジタルテレビ日本方式の採用に関して「まだ通過点。これからが大変だと思う」という見解を示したほか、着任以来毎月一回のペースで日本の閣僚が来伯している点に触れて、「ようやく日伯間の交流が活性化してきた」と語った。
六月に開催されたワールドカップは、家電業界を除いて好影響は少なく、各部とも「期待はずれ」におわった。十月の選挙戦に関しても大きな需要増加は見込めず、大方としては現状維持との見込みが多数を占めた。
また、レアル高の影響で各部とも輸出面で苦戦傾向が続き、今後とも中国から流入する安価な製品の対策が課題と報告された。
現状維持、低成長が各部の報告の中で目立つなか、自動車・二輪車の関連業界は、軒並み上向き成長となった。
以下各部の発表の要点。
【コンサルタント部門】
冒頭、ルーラ政権四年間を振り返り、九〇年代改革と世界景気の拡大を受けての良好な経済パフォーマンスと、一方、新興国家としては低成長が目立つことを指摘した。
政治分野においては、〇三年に左翼PT中核連立政権の発足が市場に失望と不安を与えたが、「市場経済・均衡財政」路線を維持。最低賃金引き上げなどの福祉政策を中心に行ってきた。
経済分野においては、九〇年代の市場開放、通貨改革、電力や金融などの民営化改革により、脆弱な輸入代替・国営工業が競争力をつけた。世界景気、資源高などの高騰もあり、安定を保っている。
これは、貿易・経常収支黒字の定着、インフレ低下(〇六年三・八%)、金利低下(同一四・七五%)、レアル通貨の急騰、公的対外債務減少、外貨収入好調(同百四十八億ドル)などの指標からも伺える。
対外関係では、常任理事国入りを目指し、新興国リーダーを継承してきた。ボリビアのチャベス大統領の台頭、メルコスールの危機から中南米域内での政治主導には陰りがあるものの、対米関係に変化なく、中国の存在も政治外交的影響をもたない。
大統領選挙を見据えて、構造改革を実行する強力な政権の成立が、外国投資拡大、成長をもたらすとの見方を示した。
下半期の展望としては、いかに成長のための改革を実行できるかがカギとなる。国債発行残高は一兆百億レアル(対GDP比五一%、今年六月)。財政総合収支は巨額の赤字を抱え、政府利払い額は千五百八十七億レアル(対GDP比七・九%、六月末)。
次期政権は、構造改革断行で債務を削減。「小さな政府」になれるのかが問われる。
日本企業の対日戦略として、ブラジルコストへの対処、米欧の投資に学ぶ余地があるという。レアル高は修正へ向かうのではないかとした。
また、WTOドーハラウンドの失敗から、二国間FTA(自由貿易協定)交渉が加速。対EU交渉が決着するのであれば、日伯EPA(経済連携協定)は喫緊の課題となり、メルコスール内の亀裂が深刻化すると単独二国間交渉に踏み切ることもあり得るとの予測をした。
部会個別テーマとしては、①移転価格税制、②年金二重払い問題、③日本国税当局から日本企業親会社への、ブラジル子会社からのロイヤリティー徴収要求の三点についての議論を喚起した。(つづく)