2006年9月2日付け
「記録に残しておかないと、歴史がなくなってしまう」。今年八月に入植五十周年を迎えたリオ・グランデ・ド・スル州の日本人移民の歴史を残そうと、記念誌編纂に奔走する女性がいる。同州連邦大学(UFRGS)の木村・ガウジオーゾ・智子助教授(文学部日本研究室コーディネーター)だ。現地日系社会関係のまとまった資料も費用もなく、出版の目処も立たないなか孤軍奮闘、約八十ページの五十周年誌「南大河州日本移民五十周年」をまとめた木村助教授に話を聞いた。
在クリチバ総領事館ポルト・アレグレ出張駐在館事務所によれば、州内に在住する日系人は現在約四千五百人(一世は約一千五百人)。州内人口一千万人と比較して、ごく少数ということもあり、邦人移住、日系社会の歴史をまとめたものはほぼ皆無だという。
同州における最初の公募移民となった一九五六年の「星子移民(二十三人組)」が作成した親睦会誌『拓跡』などはあるが、州全体を網羅したものはないようだ。
今年一月に「南伯日本移民入植五十周年記念祭実行委員会」から依頼を受け、三月から取材を開始した木村助教授は、同援協の協力のもと、州内にある十五の移住地を含めた日系集団地のアンケート調査を行った。
「全くの手弁当ということもあり、ポルト・アレグレ近郊に住む移住者に話を聞く程度で、実際に現地で聞き取り調査を行うことは出来なかった」と経済的支援がないことの難しさを話す。
今回の編纂事業の費用捻出には、援助する企業に対し免税処置がある文化省のルアネー法を申請したが、認可されていない。
「亡くなった人も多い。二十五年くらいで一度まとめていれば、と。遅きに失したと身に沁みて感じている」。
今回まとめられたのは、戦前にあった他州からの邦人移住、移住地の形成や日系集団地、アンケートのまとめ、入植当時の住居形態、宗教の意識調査、日本文学の伯作家への影響などが主となっている。
「移住から半世紀、何がどう影響し、日系社会に変容をもたらしたのか」を全体のテーマに置いた。しかし、「アンケート調査の不足、二、三世への調査も出来ず、ブラジル社会への影響などに触れることが出来なかった」と口惜しさをのぞかせる。
木村助教授によれば、戦前の日系集団地で〃消えた移住地〃となっているコロニア・サンタ・ローザにもまだ一世が三人いるという。歴史の証言が消えていくのは忍びない――。
「七年前に亡くなった母は家族の歴史、移住の経緯なんかを書き残してくれていた。だから私は自分のルーツが分かる。この地で頑張ってきた日本人の歴史を残すのは我々の使命と思うのです」。