2006年9月13日付け
十一日早朝、サンパウロ州レジストロ市で、ホテル経営者の前地豊(82)・ミツ子(80)さん夫妻が、自宅の庭先で、何者かに斧で殺害されているのが発見された。地元警察によれば、殺害時刻は十日午後九時ごろと見られる。犯人の一人は既に逮捕されており、供述から凶器となった斧が発見された。犯人は三、四人のグループとの見方もある。地元住民も「日系人がこのような残酷な犯罪の犠牲になったのは初めて」と驚きを隠せない様子だ。
犠牲になった前地豊さんは、同市セントロで子息とともに「レジスホテル」を長年経営。同市議会議員のほか、二度にわたり議長も務めている。
事件が起こった日、豊さんは自身が代表を務める同市内のエスピリタ教会での集会で説教をおこなった。その後夫妻で夕食を済ませ、帰宅。その直後に自宅の庭先で待ち伏せていた犯人グループに襲われたと見られる。
犯行目的や殺害の具体的な状況は現時点では不明。地元では麻薬常習犯による金銭目当ての事件との噂もある。
犯人は前地さん夫妻を殺害後、車を奪って逃走。午前三時から四時頃に、同市からサントス方面に七十キロほど離れた町のイタリリで、車が横転した形で乗り捨てられているのが発見されたという。
数人いるとみられる犯人グループは現在逃走中だが、地元関係者の話によれば十一日正午頃、けがをした犯人の一人が自宅にいるところを警察が押しかけ、逮捕された。
この犯人の供述から、凶器となった斧は、前地さんの自宅から二キロほど離れたやぶの中で発見された。
元市議で同市環境局長の近岡マヌエルさんはニッケイ新聞の電話取材に対し「非常にがっかりしています。灯篭流しや盆踊りなどのイベントにたくさんの人が訪れるだけにショックです」と肩を落としている。
前地さんを良く知る他の関係者も「(前地さんが)殺害される理由は見当たりません。誰かに恨まれるような人でもありませんでした」と話している。
通夜は同日午後四時から執り行われ、親族や地元関係者など約六百人が参列し、故人の冥福を祈った。「日本移民ゆかりの地」レジストロで起こった惨劇。普段物静かなレジストロの町は悲しみに暮れている。