四十年の歴史をもつ民族歌舞団『荒馬座』が、八日、アスンシオン近郊にあるセントロ・ニッケイで行われたパラグアイ国日本人移住七十周年記念祭典の会場で「大地のまつり」と題する公演を行い、千余名の祭典参加者に大きな感動をもたらした。
今回の公演は、平成十八年度文化庁国際芸術交流支援事業として実施された。荒馬座は一九六六年に東京都板橋区で創設。「首都圏に民族文化の花を咲かせよう!」を合い言葉に、太鼓や踊り・唄などの民族芸能を中心とした舞台公演を行っている。
カナダ、中国、ベトナムなどでも公演を行った実績があるが、南米での公演は今回が初めてだ。八月下旬にパラグアイに来て、イグアスー、ラパス、ピラポ三移住地と、ブラジルではサンタカタリーナ州のサン・ジョアキンで巡回公演を行い、日系移住者をはじめ多くに地元住民に日本の伝統芸能の粋を披露した。
荒馬座オリジナルの木遣り、水口囃子(滋賀県)、獅子舞と八丈島の太鼓囃子(東京)、荒馬踊り(青森県)、ソーラン節(北海道)、ぶち合わせ太鼓(神奈川県)、虎舞(岩手県)、沖縄のわらべ唄とエイサー(沖縄県)、竿灯(秋田県)、秩父屋台囃子(埼玉県)を男女九名の座員が演じた。
座員の一人、宮河伸行さん(熊本県出身)は、「日本の首都圏では隣同士の付き合いが疎遠なのに、人と人が融合している移住地の姿を見ることができて良かった」と日本の伝統的慣習を発見したような面持ち。
「ここはリンゴの里ね、リンゴを持ち込んだのが日本人だったと知って感動した。パラグアイでは大豆や野菜なども栽培し、広大な南米の地で日本人としての誇りを持ち続ける(同胞)先人たちの勇気と知恵に圧倒された」と、サン・ジョアキン公演の直後に感想を述べたのは金子満里さん(埼玉県出身)。
パラグアイのピラポ移住地で公演を見た石亀定男さん(岩手県)は「四十五年ぶりに日本文化に触れて涙してしまった。虎舞も良かったね」と感激していたし、「しなやかなからだの動きが印象的だった。獅子舞で日本を思い出した。素晴らしい公演だった」、と望月強さん(山梨県)。
座員から二時間以上も特訓を受ける貴重な機会を得たピラポ太鼓保存会(宇津木慎吾会長・二世)の面々は、「プロの指導はすごいね。子供たちに活気をいただいた」と感動の余韻に浸っていた。
[立証されたイグアス移住者の匠の技術]
荒馬座の今回の公演にはイグアスー太鼓工房(石井吉信棟梁・山形県)で作られた大きな和太鼓と竿灯(かんとう)を使用したのが特徴だ=写真=。「叩く感じが日本製の太鼓とまったく遜色がない!」とは座員たちの感動の声だった。
去る八月下旬にイグアスー移住地を訪問した扇千景参議院議長がこの和太鼓を絶賛した(本紙・八月三十一日付け報道)が、演奏するプロもイグアスー製和太鼓の質が本物であることを立証した。
竿灯に乗せる稲穂を暗示する提灯は日本から持参したものの、竹の骨組みは移住地に生えている竹を油ぬきして工夫した。竿の上部を弓形にするには細心の神経が使われた。公演会場の天井の高さを考慮して、高さ(長さ)四メートルの基軸に長さ七十センチの継ぎ竹が三本用意された。
繋ぎの部分には、工房で特殊加工した鉄パイプが目立たないように竹の内側に取り付けられた。荒馬座一行がこれらの継ぎ竹を日本に持ち帰った。日本国内での公演に使用するためだ。
『荒馬座』のパラグアイ公演は日本人移住七十周年記念祭典に伝統芸能の華麗な華を添えた一方で、イグアスー移住地の《匠の技》の存在も立証する結果を導いたようだ。
移住70周年祭典で千人を魅了=『荒馬座』、パラグァイ初公演=ピラポ入植者=45年ぶりの日本文化に涙=和太鼓、竿灯はイグアスー産使用
2006年9月15日付け