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◇コラム 樹海

 一九五〇年代、サンパウロであった朝香宮事件を思い起こした。他人の琴線に触れてきて、それを金儲けの手段とする悪いヤツは、まだいる▼さきごろ東京地裁で、有栖川宮家の後継者を名乗って結婚披露宴を開き、多額の祝儀をだまし取った中年男女二人に有罪判決があった。被害者数は百三十七人だった。有栖川宮家は一九一三年に途絶えている。日本には、宮家がなくても、話をきいて結婚式に出たいと思い、祝儀を出す人が、いまも実在しているのだ▼地裁の裁判長は「皇室を崇敬する者の心情に巧みに付け入って、踏みにじり、悪質だ」と断じた。ブラジルの昔の事件とは時代背景が違う。日本のは、名誉欲をくすぐられた人びとが詐欺に遇ったという側面がみえる。「ええかっこし」の心理を逆手にとっており、引っかけた方にもひっかけられた方にも、おかしみを感じる▼ブラジルの朝香宮事件は人の足元を見ていた。卑劣だった。同宮家は戦後まであった。一九四七年に皇籍を離脱している。コロニアの人たちのほとんどは、それに関心がなかったし、知らなかった。存在しない宮家の当主が邦人視察に来たとし、生活費を献金させたのである▼コロニアは、テロ暗殺事件が収まり、初の連邦議員を出し、コチア青年導入契約が結ばれるなど、戦後の営みを軌道に乗せようとしていた頃だった。しかし、民心が安定していたとはいえない。当時も皇室尊敬の念は強かった。その辺りをつかれた▼もう起こり得ないだろう。(神)

2006/09/21