二〇〇二年に刊行された「アルゼンチン日本人移住史(戦前編)」に続き、先月、戦後編がまとまった社団法人在亜日系団体連合会(FANA)内のアルゼンチン日本人移民史編纂実行委員会(一色田眸委員長)によるもの。日本人第一号とされる牧野金蔵氏が一八八六年、イギリス船で上陸してから、百二十年。同国日系社会を総括する初の移住史の意味は大きい。六年間に集められた資料は、すでに発足した移民資料館準備委員会でデジタル化が進められる予定だ。「歴史を残す使命感とチームワークが作業を支えた」。崎原朝一・編集委員長に話を聞いた。
「将来、興味を持つ人、研究者の手がかりはつけたと思っています」。約二十人の編集委員と六年間、編纂に取り組んだ崎原委員長はそう自信を見せる。
日系社会の希求としてあった移住史編纂が始まったのは〇〇年。二年後に戦前編を刊行。今までに二千部を販売した。戦後編の西語版は、〇五年十一月に、日本語版は先月刊行されている。
戦前編の約四百頁に比べ、戦後編は約六百頁とかなり分厚い仕上がり。
「多くのテーマと材料があったものですから。これでも切り詰めたんですよ」(崎原委員長)。より多くの記録を残したいという編集者たちの思いが詰まった移民史だ。
ララ物資、帰国二世の呼び寄せなど日系社会の再建に始まり、移住形態、移住地に様々な見地から焦点を当てた。日系人の代表的産業である洗染、花卉、蔬菜業界、日系企業にも大きくスペースを取り、日系社会の活性化ともなったボリヴィア、ドミニカなど他国からの転住にも触れた。
ブラジル、日本のマスコミにも取り上げられ、日系社会に大きな混乱を招いた百年祭紛争について、「非常にデリケートなテーマ。当事者に取材はせず、当時の新聞の記事、論評などを基に構成した」と説明する。
この時、百周年事業に記念史編纂が進んでいたが、混乱のあおりを受け、頓挫したという。当時も編纂事業に携わっていた崎原委員長は、「この時集められた資料が役に立った」。
アルゼンチンの伝統舞踊、タンゴの世界に身を投じた日系人、二世たちの歩みにも触れ、「編集委員の二世たちが、一世には分からない心情やアルゼンチン社会からの視点も入れた」と世代を超えた編纂を強調する。
久田アレハンドロ・日西両語コーディネーターも、「多くの二世の意見や見方を盛り込んだ。興味を持って読んでもらえると思う」と話す。
集められた資料は、すでに発足した移民資料館準備委員会でデジタル、ネットワーク化が進められる予定となっており、久田コーディネーターは来月、JICA横浜で技術研修を受けるため二カ月間訪日する。
「日系社会はバラバラだと思っていたが、俯瞰してみると、日本人の生き方、国民性がうねりの中心となっていることに気付いた」と編纂を振りかえる崎原委員長。
「よく言われる勤勉、誠実という日本的美徳を斜めに見ていた自分もあったが、先輩たちの蓄積、我々はその余得にあずかっていることを感じざるを得ない」と気持ちを語った。
本の取り寄せ、問い合わせは、社団法人在亜日系団体連合会(FANA=電話=54・11・4307・2026/メール=fana@santei.com.ar)まで。
亜国日系120年を総括=アルゼンチン=移民史戦後編が完成=歴史残す使命感に支えられ=資料はデジタル、ネットワーク化
2006年9月22日付け