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「失われた日本がここに」=松林監督、講演で熱弁

2006年10月18日付け

 「戦後六十年、日本は思慮深さも思いやりもない国になっております」。ブラジル日本都道府県人会連合会創立四十周年を記念し、森繁久弥主演の社長シリーズなどで有名な松林宗恵監督(86)は十二日午後、ブラジル日本文化協会で「日本人の心を語る」をテーマに講演した。
 記念大講堂を埋めた一千人以上の聴衆を前に、俳句などを例に出しながら日本文化の重要性を説き、ユーモアたっぷりに魅了した。主催はブラジル仏連、同南米教団、県連、ニッケイ新聞社。
 浄土真宗本派本願寺南米教団の特派講師として今回来伯し、マリンガ、リンス、プレジデンテ・プルデンテ、モジなどの寺でも講話した。
 「あの広い原野を開拓するのは並大抵ではなかった。この大地に、今日本では失われているものが現存している。そのすばらしさを日本全国で褒め称える講演をしますよ」と語ると大きな拍手が起きた。
 オザスコへ行った時には「境内で遊んでる子供から、もう日本では聞かれなくなったジャンケンポンが聞こえてきたんです。地球の反対側で聞けたことは、まことに感動の至りです。涙が出ました」と熱弁をふるった。
 明治時代の小説家、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の随筆に「日本人の心とは、思いやりにみちた、はなはだ思慮深い情感的なもので、英語に翻訳できない」との記述があったと説明し、そのような本来の心が「戦後六十年の教育の悪化で失われつつある」と嘆いた。
 自然への優しい思いやりを詠った「朝顔につるべ取られてもらい水」との俳句を紹介し、「今では朝顔引きちぎって水を汲み、隣の家に水を借りに行ったら『どうして自分の井戸で汲まないのよ』と文句を言われる時代になってきました」と聴衆を爆笑させた。
 「日本が壊滅してダメになっても、ブラジルの日本文化を戻して復活したらいいと思います」。続いて、映画『社長外遊記』が上映された。
 来場者の一人、木村博さん(91)=サンベルナルド市在住=は「とてもいい話でした」と感心した様子。猪苗代富江さん(86)も「思いがけない素晴らしい話が聞けた」と喜ぶ。田中美乃留さん(82)も「感動した。こんな話なら何度でも聞きたい」と感想をのべた。永井竜雄さん(78、二世)も「ブラジルで昔の日本のよいところを見たという話を、今の日本の若い人に聞かせてもらいたい」と語り一句詠んだ。「ブラジルに 古里の心 身にしみる」。