【エスタード・デ・サンパウロ紙二十七日】米政府は二十六日、ルーラ政権が産業振興のために設けた輸出奨励制度がWTO(世界貿易機関)の補助金禁止条項に抵触すると異議を申し立てた。輸出奨励制度は輸出品を製造する工作機械の購入に対しPIS(社会統合基金)やCofins(社会保険負担金)の徴収を免除するというもの。申し立ては告発の段階に至っていないが、米政府の通商政策で新しい動きが見えたといえそうだ。ブラジルのハゲネイWTO大使は、これは米政府の単なる示威行為で、取り立てて気にすることではないと制した。
硬直状態にある伯米通商交渉は、ようやく動きが見えたようだ。暫定令で制定した輸出奨励制度のPISやCofins、IPI(物品税)、CSLL(営業益に対する厚生福利負担金)、零細企業への所得税免税など一連の特典が、ホワイト・ハウスのレーダーにかかったらしい。近日中に第二弾、三弾が飛来するものと思われる。
BNDES(国立産業開発銀行)にも砲口は向けられた。同銀行が実施しているFiname(産業振興特別融資)に、説明を求めた。これは工業部門への補助金制度だと米政府が見るのだ。これはWTOが禁じた補助金システムに、抵触すると抗議した。
カナダ政府がかつて、BNDESの輸出奨励制度を提訴に持ち込み細部に至るまで変更を強要したが、現在のところ米政府にその気配はない。WTOの補助金委員会は、まだ結論に至っていないので議論が続く。しかし、米国は政府でも議会でも今後の通商政策で補助金問題が、ネックになっていることは明白な事実である。
米通商代表部(USTR)は、国内法の内容を検討して現実とのズレに衝撃を覚えた。税制改革が要求されるが、米国の置かれた状況から見ると改正は複雑怪奇といわざるを得ない。米政府はWTOへ提訴する前に、ブラジルを始めとする国々へ法整備の打診をする必要がある。
WTOへ行った異議上申は、ブラジル政府へも文書で伝えられた。WTOでも補助金委員会が召集され、審議が行われた。米政府に提議のチャンスが与えられ、正式に新議題として検討される。しかし、その前に米国の申し立てに対するブラジル政府の抗弁を,WTOは分析する。
ブラジルのハゲネイ大使は、輸出奨励制度は世界中どこの国にもあるという。同大使はブラジル外務省と国税庁、BNDESを招き、米政府の申し立てとブラジルの同制度を協議する。米代表団との対決に備えた予行演習だ。
米政府にとって強敵は、ブラジルだけではない。したたかさでは誰にも負けない中国がいる。ブラジルの言い分は回答文書で概ね理解できるが、中国は一筋縄ではいかない。国民気質は、長い歴史によって形成されるものらしい。
米政府がブラジルの制度で疑問とするのは、企業の輸出による利益が年間営業益の八〇%を超える場合、数々の税制恩典が発生する点だ。それは補助金制度に該当するのではないかという。ソフトなどのサービス輸出でも同様とされる。ブラジル政府は税制恩典が、減税ではなく手続きの簡略化に過ぎないと説明した。
ブラジルの輸出奨励に異議=米政府 補助金該当と指摘=WTO禁止条項抵触と上申=通商交渉に新しい火種
2006年10月28日付け