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◇コラム 樹海

 移民事業に生涯を捧げた宮坂国人氏は俳句を好み幾別春の号でいい句を遺している。あの戦争が始まった頃、昵懇にしていた朝日新聞のリオ特派員・荒垣秀雄氏が拘置されると英文雑誌を差し入れした。荒垣記者がページを開くと所々にペンで印がしてある。それを辿り繋ぐと「秋風や獄衣の袖に吹くなかれ」となり、大いに感激した話はよく知られる▼戦後に朝日東京版で「天声人語」が始まると17年も書きつづけ名コラムニストとされ移住審議会の委員を務めるなど日系社会とは縁の深い人である。コロニア俳壇にも詳しく念腹の「雷や四方の樹海の子雷」を取り上げ雑誌への小文もある。虚子を師と仰ぐ念腹は木村圭石や総領事だった暁雪(市毛孝三)らとブラジルの地に俳句を植え育て上げた功労者で今もなお苦吟を楽しむ俳人はそれなりに多い。その実弟・佐藤牛童子が「ブラジル歳時記」を上梓し話題に―▼正岡子規から高浜虚子に続く念腹は、季語を最も大切にし花鳥風月を重んずる派で「歳時記」はなくてはならないもの―である。しかし、日本とは気候も違い風習や動植物もまったく異なるようなブラジルでの「歳時記」編纂は難しい。四季がきちんと区分されないために季題を春にするか夏かの問題もあろうし、これらはこの国に長く住み自然と世をよく観察するしかない▼牛童子編は季語が約2000語ばかりと多いが、これも「新季題としたい」と云うものがあるからで編者のご苦労がよくわかる。好きな向きは「歳時記を枕辺に」するそうながら、四季の移ろいを知るためにも欲しい一冊である。     (遯)

2006/10/31