姿三四郎がブラジルにもいた!?――。富田常雄著で明治時代の柔道家の人生を描いた『姿三四郎』と同じ名前をもつブラジル人兄弟がいることがわかった。兄サンシロウ・アレックス・ド・ナシメント(33)さんと弟のスガタ・ロドリゲスさん(23)の二人だ。二人とも柔道家の父親の影響を受けて、小さいころから柔道に取り組んできたというまさに〃ブラジル版姿三四郎〃。来年の九月に同書のポルトガル語の翻訳版が出版されるにあたり、サンパウロ市に暮す弟のスガタさんに名前の由来や現在の生活、将来の夢などを聞いてみた。
「小さいころはおかしな名前だと思って過ごしていたけど、みんなスガタって呼ぶしもう慣れてしまったよ」――。がっしりした体格が印象的なスガタさんは自身の名前についてそう苦笑いしながら答えた。「ブラジルでは私しかいない名前ですよ」。
どうしてこんな名前をもらったのか。スガタさんの話によれば、根っからの柔道家である父親のジョゼ・イナシオさんが、たまたまサンパウロで公開された姿三四郎の映画をみて感動したことがきっかけらしい。
姿三四郎に憧れたイナシオさんにはこれまた「三四郎」という名前をもつ仲の良い日系の友人がいた。二人は男の友情として、「お互いに長男が誕生したら、私たちの名前を交換して名づけよう」と約束。
晴れて長男が誕生すると約束通り、イナシオさんは友人の名をもらって「サンシロウ」と息子に名づけた。その後、女の子が一人生まれ男の子が誕生すると、「サンシロウがいるならスガタもいるべき」とこの名前をつけたそうだ。
出生届けをする際にも、変わった名前だからやめたほうがいいと役場の職員から忠告を受けたそうだ。しかし友人の約束に加えて、柔道を志す身としてはあこがれの「姿三四郎」の名を息子につけることは譲れなかった。「ほんとはお母さんは普通の名前をつけたかったみたいだけどね」。
スガタさんはナシメント家の五人兄弟の末っ子としてブラジリアに生まれた。姉三人と兄のサンシロウさんに可愛がられて育った。
柔道歴は二十年。柔道家の父親の影響をうけて、兄弟全員が柔道に取り組むというまさに柔道一家の中で、日々練習に励んだ。
その結果、スガタさんはブラジル選手権の八十一キロ以下級で二度も三位に入賞。六年前にはブラジルの代表としてアフリカのチュニジアまで遠征した。パリで開かれた世界中の消防士があつまる柔道大会にも参加したことがある。
現在はサンパウロ市に一人暮らしをするスガタさん。技術系の大学に通うかたわら、航空会社に勤めている。最近、研修生から正規の職員になったそうで、「将来はこのままエンジニアとして働けたら」と話す。
ここ数年は仕事と学業の両立に忙しく、柔道の練習はめっきり減ったという。「今年で大学を卒業するし、落ち着いたらまた練習をはじめるよ」と笑顔を覗かせた。
姿三四郎について知っていることを尋ねると「日本のサムライだよね?」と一言。現在「姿三四郎」ポルトガル版の出版が進められいることから、「是非読みますよ。今より自分の名前の意味を説明できるようになるしね」。
休日などは友人と海にいくことが多く、柔道以外にもサッカーが好きとか。音楽に関しては「シャワーを浴びているときくらいだね」。
将来結婚して子どもができたら「望むなら柔道をさせてあげたい」とのこと。そこで最後にその子にどんな名前をつけるかと聞いてみると「名前ですか。それは普通にしますよ!」。
誠実でエネルギーに溢れる青年を今後も応援したい。
ブラジルの〝姿三四郎〟=柔道歴20年のスガタさん=父イナシオさんの想い受け
2006年11月2日付け