サンパウロ新聞記者の松本浩治さんによる写真集「移民Ⅰ」がこのほど完成した。松本さんが十二年間の記者活動のなかで撮り続けてきた老移民一世、日系人たちの写真をまとめたもの。有名人ばかりではない市井の人たちの姿を捉えている。「お世話になった人たちへの恩返し」と話す松本さん。発刊を記念した写真展が、サンパウロ新聞社創刊六十周年記念事業として、ドラードス、ベレン、サンパウロの三カ所で開催される。
写真集「移民Ⅰ」(トッパンプレス社発行)は全百四十四ページ。松本さんが取材活動のかたわら国内各地で撮影した日本移民一世、二世たちの写真百十六枚が掲載されている。
日々の生活で出会う人たちや、地方の移住地で暮らす人、記念式典や入植祭など取材先で撮り続けてきた写真。松本さんは「記者として取材しながらですから、密着して撮影できたとと思います」と語る。
撮影場所はサンパウロ市、近郊、サンパウロ州内の移住地をはじめ、北伯ベレン、南マットグロッソ州ドラードス、リオ、南伯など全国に渡っている。白黒の写真に当時の様子や思い出を記した説明文(巻末にポ語訳掲載)が添えられている。
現在四十歳の松本さんは九四年に来伯。日伯毎日新聞、ニッケイ新聞、サンパウロ新聞で十二年間邦字紙記者として活動してきた。
写真集を作りたいという気持ちは二〇〇〇年ごろからあったという。「年を重ねるうちに取材先の相手も高齢になり、亡くなる人も出てくる。今写真に留めておかないといけないという気持ちでした」と思いを語る。そして今回、ダイドーエンタープライズ社長の園田昭憲氏の協力を得て出版に至った。「説明文のポ語訳も友人がこころよく引受けてくれました」と感謝を表わす。
写真の多くは老人たちのもの。ブラジルに渡り、苦労を乗り越え数十年にわたり生き続けてきた市井の人たちだ。
深いしわの刻まれた顔。「皆さんいい顔をしているんです」と松本さんは言う。「農業をしている人たちと握手をすると、ごつごつ、ザラザラしている。日本ではできないような渋い顔です。苦労もあっただろうけど、皆さん温和で、『まあ飲めや』と言ってくれる。移民のドラマを生きてきた人たちなんだなと思います」。
「今まで世話になってきた人を載せたかった」と話すが、それでも載せきれなかった人たちや、写真集完成前に亡くなってしまった人もいるという。
十二年間の集大成。松本さんは「自分の『区切り』というだけでなく、世話になってきた人たちへの恩返しという意味もあります。これからも返しきれないくらいの恩ですけどね」と話す。出版の感想を尋ねると「やれやれですよ」と笑顔を見せた。
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写真集「移民Ⅰ」は一冊三十レアル。高野書店、ブラジル日系老人クラブ連合会事務所とBumba編集部で販売している。
なお、松本さんの写真はサイト「みんなでつくる移民百年祭」(http://www.100nen.com.br)でも見ることができる。
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写真展は今月十一日に南麻州ドラードス文協会館で、十二、十三両日は同州共栄日伯体育協会会館で開催。その後、二十六日から三十日までベレンの汎アマゾニア日伯協会ホールで、サンパウロ市展は十二月十五日から十七日までブラジル日本文化協会貴賓室で開かれる。
写真展には百枚の写真が展示される。「気軽に見てもらえたら」と話す松本さん。「会場で被写体の人たちに会うのが楽しみです。近況を聞けたらいいですね」と話していた。
移民の素顔残したい=松本浩治写真集「移民Ⅰ」=コロニア見つめた12年=国内3都市で写真展
2006年11月7日付け