日本語とスペイン語のバイリンガル教育を特徴とし、二〇〇一年に開校したばかりの日本パラグアイ学院(栗田メルセデス院長)を、秋篠宮さまが三日午後訪れ、授業の様子などをご視察された。同国には珍しい全日制で、毎日四時間も日本語による教育がある。ブラジルでは日伯学院構想が浮沈を繰り返しているが、隣国では強力なリーダーシップにより、一足先に実現にこぎつけ、創立五年あまりで皇室のご視察を受けるなど、評価を固めつつあるようだ。
「あるこーっ(歩こう)、あるっこー。わたしは元気。歩くの大好きっ。どんどんゆこおっ」
手に持った日パ両国の小旗を振りながら、アニメ映画『となりのトトロ』のテーマソングを力一杯歌う子供たちの声が、先週完成したばかりの体育館にこだました。
栗田院長は「子供たちが、殿下の前にこの歌を合唱したいって、自分たちで選んで練習したんです」と興奮冷めやらない様子で説明した。
首都アスンシオンの閑静な住宅街の一角、六千六百六十五平米の土地には、もともとあった邸宅を拡張した現校舎と、万博基金の支援を受けて、十二月に完成予定の二階建ての新校舎がならぶ。
現在、幼稚園から小学五年生まであり、全生徒数は七十四人。二〇一三年には高校部まで揃える予定だ。一クラス二十人以内の少数精鋭の授業方針をもち、教職員は二十五人もいる。
同学院基金の資金は、日本車販売店網を経営する豊歳直之理事長自身が捻出しており、その強力なリーダーシップによって運営が支えられている。
豊歳マリオ理事長代行(35、二世)は「最初は誤解があって反対する動きもありましたが、何とか乗り越え、だんだんとみなさんへの理解が進んできている」と胸を張る。豊歳理事長の次男で、理事長は現在訪日中。「日本的な特質を持って、次世代のパラグアイ発展に尽くせる人材を育成するのが目標です」。
八六年の移住五十周年の頃から、学院設立の構想はあった。六十周年の時、先進地メキシコの日墨学院を関係者が視察。〇〇年の日本人会総会で日本語学校の使用が許可され、同一二月にパ国文部省から認可がおり、翌〇一年に幼稚園生九人から始まった。
長男のマルセーロさんも「最初は十人にもならない人数からだった。殿下に来て頂けて本当に嬉しい」と笑顔を浮かべ、「日本を大切に思ってくれるパラグアイ人を育てることが大事。将来、政府をしょって立ち、日本と気持ちよく交渉する人材が育ってほしい」と期待を述べた。
秋篠宮さまは日本語やスペイン語の授業、合気道の練習風景を視察され、興味深さそうに壁に貼られた生徒の絵などの作品に見入っていた。栗田院長によれば、校内のあちこち張られた皇室の写真などを見て、「嬉しそうにされていました」という。
同校の特徴の一つは、日本から来た三人のボランティア教師だ。川奈部くに子さんは日本の中学校で三十五年間も英語教師をした経験を持つ。早期退職を申し出て、三ヵ月前から同校で教える。日系子弟は三割程度だが「日本語はお遊びではありません。シビアに成績表をつけています」と強調する。
午前中のパラグアイ式教育カリキュラムと、午後四時間ある日本語による授業と別々に成績表をつける。午後のうち二時間は日本語教育、残りは家庭科、書道、囲碁、合気道、音楽、コンピューターなどだ。
インターネットで教員募集を知り、〇五年一月から教員をする出口優香さんは「ゴミを床に捨てはダメと学校で教えても、家に帰ったら家族が捨てている。そういう文化の違いを教えるのが難しい」と語った。
子供たちは手製の特別カレンダーを贈り、秋篠宮さまは公式サッカーボール三個、備前焼の犬の置物、犬の埴輪、『昔のくらしの道具事典』(岩崎書店)など本二冊を賜った。
政府支える人材育成を=パラグアイ=秋篠宮さま日パ学院ご視察
2006年11月8日付け