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〝本物の日本食〟を認証する?=農水省が有識者会議設置へ=「地域差ある」との声も=サンパウロ市の日本食店は600軒

2006年11月9日付け

 日本の農林水産省がこのほど、海外にある日本食レストランへの認証制度導入に向けた有識者会議を設置すると発表した。今後会議で具体策をまとめ、二〇〇七年度中の導入を目指すという。「日本食レストランと称しつつも、食材や調理方法など本来の日本食とかけ離れた食事を提供しているレストランも多く見られる(同省)」ため、政府は基準を定め、条件を満たす店だけに認証マークを与えたいとしている。対象となる国や都市は有識者会議で検討されるが、海外有数の日本食レストランを誇るサンパウロも、その中に入ってくると思われる。
 海外の日本食レストランは、日本食ブームに便乗して急増。現在、二万軒と言われる。同省HPによれば認証制度は「海外日本食レストランの信頼度を高め」「日本の正しい食文化の普及」を目的に導入。日本の農林水産物の輸出を促す狙いもある。タイやイタリアでも、似たような制度があるという。
 今月上旬に十一人からなる有識者会議(小倉和夫座長、国際交流基金理事長)を新設。会議では(1)日本食の定義、範囲から、(2)日本産食材の使用程度、調理方法、接客技術の基準、(3)対象とする国、都市、(4)認証するのは民間機関か公的機関か――などの内容を詰めていくという。三回の会議を経て、来年二月に具体策をまとめる。二〇〇七年度には提言を行う見込みだ。
 制度がはじまれば、日本食レストランが乱立するサンパウロも対象都市になる可能性が高い。在聖総領事館の田畑篤史経済担当副領事は「具体的なことはこれからじゃないでしょうか。会議後には、各公館に調査依頼が来ることになると思います」と話す。同副領事によれば「サンパウロ内に約六百軒の日本食屋がある」そうだ。
 では〃現場〃の声はどうだろうか。
 市内ピニェイロスとモエマに「秀樹すし」を経営している渕上秀樹さん(40)は十七歳から職人修行をはじめ、通算十年間日本で働いた。「日本食は一つの魂だからね。魚の扱い方にしても、一年やったから〃職人〃じゃないんだよ。もっと早く(認証制度を)やっていれば、今のような乱立にはならなかった」と制度導入に前向きだ。ただ「全て日本人向けではやっていけないから、ブラジル人向けの店も必要だろうけど」とも。
 「本当の日本食を知ってもらいたい」と話すのは、リベルダーデ区とパウリスタで「寿し安」を営む氏家保一さん(68)。「役所が出す、きちんとしたパンフなら保証もあるし、『日本食はこうあるべき』というのを紹介してほしいね」。
 四十五年以上日本食に携わってきた氏家さんだが、近年は「営業のためにアラカルトを取り入れた」という。「昔は日本人が多かったからね。本来の日本食を食べる人が減ってきたから、変えていかなきゃいけない」と実情を吐露。それでも「どれが本当か、お客さんがだまされないように、わかりやすくしてほしい」。
 これから政府が基準を作るにあたり、氏家さんは「日本食の基本は日本にある。けれど、水、塩、砂糖、魚にしても地域で全く違うから、ある程度変えていかなくてならない。ブラジルでの日本食を分かっている人に、話を聞いて考えてほしい」と話した。