パラグァイの首都近郊の農村で十二日、零細農家に大豆「オーロラ」の種子配布が始まった。場所はアスンシオンから北東に九十キロほど離れているカラガタウ(Caraguatay)。人口は三万五千人ほどの閑静な町だが、中心部から一歩離れた地域には三百戸ほどの零細農家がある、といわれている。
南米大陸でも有数と言われている豊富な地下水脈の一つ、グァラニー水脈がこの地域を通っているため、地下水を十分に汲み上げることができれば、営農基盤を確立することも夢ではないようだ。それを立証するかのように、この地域では日本人十二家族が堅実な農業を営んでいる。このため、「働く日本人、罪を犯さない日本人」のイメージが住民に浸透している。
今年は日本人がパラグァイに移住して七十周年を迎えた。去る九月八日には大統領の臨席を得てセントロ・ニッケイで盛大な記念式典が行われ、今月初めには秋篠宮殿下が訪問されて国民挙げての熱烈な歓迎を受けた。
七十周年を契機に、たとえ規模は小さくとも、零細農家の生活向上に役立つ行動をしよう、とNGO(民間組織)のオイスカ・パラグァイ総局(高倉道男会長・大分県出身)がカラガタウ周辺の零細農家に自家消費用の大豆栽培を奨励することを企画したところ、それに賛同したイグアスー移住地の有志から大豆「オーロラ」の種子二百キロが提供されたもの。
この大豆は非遺伝子組み換えで、蛋白質を豊富に含み、健康に優れていることで知られている。イグアスー移住地特産のイメージが強いが、パラグァイ国産大豆第一号に認定されている優良品種だ。名称のAuroraは、あけぼの、夜明け、を意味し、神話にある女神の名前でもある。
第一回目の配布がトリンホ部落で行われ、種子二キロずつが三十六家族に手渡された。この村落では若手リーダーの一人、カルロス・ゴンザレスさんを長と
するComite de Kaa Hee Bario Turinjoと称するステビア栽培グループが組織されており、このグループが責任をもって「オーロラ」栽培に取り組む意欲を示している。
カラガタウで自ら農業を営んでいる久岡寛さん(高知県)が種子の配布に立ち会った。一人ひとりが種子受領書にサインをして、収穫したら倍の四キロを返済する、という条件だ。「この地域でなら、一キロの種子から約二十キロは穫れるだろう」と久岡さん。(来年四月頃に)返済される「オーロラ」は大豆入り食パンとなり小中学校の給食となって再び地元に還元される予定だ。まずは、子供と女性の栄養改善から貧困脱皮をはかる試み、といえよう。「信頼に応えるためにも、みんなでこの機会を大事にするよ」とゴンザレス会長は断言している。
別の村落(複数)で農業指導に取り組んでいるJICA青年協力隊員(東京農大卒)も種子三十キロを担当することになった。この地域で大豆が栽培されるのは初めてだが、久岡さんは二年前から自分の農場で試作して成功しているため、今回の栽培指導も引き受けた。これを助走として零細農民の意識を高め、次はパラグァイ原産のステビア(グァラニー語でKa’a He’eと表記)栽培を支援して貧困脱却に弾みをつけたい、としている。小さな一歩、に期待したい。
大豆「オーロラ」種子を配布=パラグァイで零細農家支援=浸透している働く日系人
2006年11月23日付け