【エスタード・デ・サンパウロ紙十九日】ブラジル政府がWTO(世界貿易機関)で先進国の市場開放を要求する中、国際市場は閉鎖化の逆方向へ進んでいると、ノーベル経済学受賞者のフリードマン博士が述懐した。途上国がグローバリゼーションへの反発を訴えながらも潤ったのは、皮肉にもグローバリゼーションのお陰であったという。グローバリゼーションに拍車を掛けたのは、インターネットだ。ブラジルが導入を検討している中国方式は、やがて終焉する。その後中国が導入するのはチリ方式だ。ブラジルは、どちらも導入できないだろうとみている。
フリードマン博士は十六日に死去した。その直前にブラジルを取り巻く国際情勢を次のようにエスタード紙記者に語っていた。
【国際情勢】ブラジルも多かれ少なかれ影響を受けたのが、米軍によるイラクの武力介入である。介入するべきではなかったが、今はいかにして栄誉の撤退を演出するかにかかっている。魅力ある自由の国アメリカの威厳は、今後イラクが世界と協調しつつ活動できるかにかかっている。イラク情勢が解決すれば、中近東情勢は一変する。
【独仏伊とEU】世界経済の牽引車であるべきEU先進国の経済停滞は、閉鎖的市場が原因である。独経済の停滞は為替政策の失敗だ。EUの通貨ユーロは、EU経済混乱の原因であり、世界経済に貢献どころか頭痛の種になる。
ユーロは、国際通貨になれない。EU諸国は為替政策で協調性がない。ユーロは兌換紙幣であるが、政治的独立性がない。EU経済は価格統制や給与統制に縛られ、雇用創出もできない。EU先進国はジレンマの虜となり、経済が閉塞状態にある。EUの大企業は海外投資でEU内を空洞化させた。それがEU市場の閉鎖化であり、対メルコスル交渉のネックなのだ。
【低率インフレ】原油の暴騰にもかかわらず、先進各国が低率インフレを保持しているのは、インフレが消費市場の需給現象ではなく、為替市場の現象になっているからだ。各国の中央銀行が通貨政策を通じてインフレを抑制しているからである。過去十五年間、原油の変動を通貨政策で最小限に押さえることを学んだからだ。
【日中韓が支える米国の債務】最後の晩餐がいつか終わるかと心配するが、それはない。米政府のバランス・シートを観察すると、支払い金利と受け取り金が同額で健全な均衡財政である。米国が海外に所有する資産総額は、日中韓が米国に所有する債権より遥かに多い。投資家は米国への投資がいかに安全か容易に分かるはずだ。米国は敵国でないかぎり、資産の没収も押収もしない。
米国にとって海外投資は、国内投資よりも多大なリスクを冒しての投資であるから、ハイリターンを求める。ブラジルは米国を誤解している。日中韓は対米投資でオタオタしないし、ローリターンで投資を続ける。なぜか。それは日中韓の通商政策なのだ。
【中国経済の運命】中国の繁栄を国家主義自由経済市場というが、やがて矛盾は露呈する。民間企業と独裁主義は両立しないし、対決の日が来る。その時に民間企業が踏み潰されるか、独裁国家が崩壊するかだ。それは天門安事件の続編だ。その前に政治的譲歩があれば、現在の経済成長率は止まり、停滞に入る。
多くの中国人青年が最近、個人的自由が認められ外国へ出て見聞を広めている。政府は柔軟姿勢を採り、香港政府に自分の道を歩むことを許すなら、本土も同じ道を行く。中国の新社会主義は所得の再分配だけを行い、固有資産の再分配は行わない。
国際市場は閉鎖に向かう=フリードマン氏語る=グローバル化で潤った途上国=中国の矛盾はやがて露呈
2006年11月29日付け