2006年12月14日付け
【既報関連】ガットゥーーン。ガットゥーン。鈍い、重たい打撃音が工場内に響く。巨大な千五百トンのプレス機だ。現在二台がフル稼働しているが、「あと二台増えるんですよ」と石村健三副社長は笑顔を浮かべる。
七日午前、日本勢としては初めてフレックス車(FFV)の生産を開始したホンダオートモーベイス・ド・ブラジル(岩村哲夫社長)。午後からは、昨年来一億ドルを投資して拡張工事を進めているサンパウロ州スマレ市の四輪車工場の見学が行われた。
七〇年代、七年間もアメリカ駐在して四輪工場立ち上げを経験した石村副社長は「ブラジルの従業員はよく働く」と感心する。北米では、日本人が機械の使い方を教えること一つとっても、微妙な抵抗があったという。ブラジルの方が素直にまじめに働くという印象を持っている。
ブラジル社は今年創立三十五年を迎えたが、四輪車の生産開始は九七年。今年は累計で三十万台生産を果たした。今年の生産は七万七千台。三交代でフル生産しており、「作っただけ売れる」状態だ。
この年末年始に大幅に生産ラインを刷新し、新年一月八日から年産八万四千台の能力を持つようになる。
ライン拡張に伴い、九七年には六百七十人だった従業員も毎年増え、現在では約千九百人に。
九七年は日産六十台の少量生産工場だったが、以来八年間で五倍の三百十台に拡大している。来年一月には三百六十台、同八月には四百台を予定している。
当初は〇八年に十万台体勢にすることを計画したが、来年八月に前倒しするほど好調だ。達成されれば中規模生産工場になる。
ブラジル自動車メーカー最大手はフィアット(二七%)、続いてGM(二二%)、VW(二二%)フォード(一一%)、トヨタ(三・七%)、ホンダは三・七%だ。
欧米メーカーはすでにフレックス車中心で、今年の販売台数の八割ちかくが同種車。今スタートしたばかりの日本勢は出遅れた形だが、より完成された技術で勝負してシェアを広げ、欧州勢を追撃する。
岩村哲夫社長は記者会見で、フレックス車は当面、国内販売分の三割程度を予想しているが、「おそらくその割合はもっと増えていくだろう」と見通している。エタノールがガソリンの半値を維持する限り、需要は衰えないとの予想だ。
新型エンジンの開発に当たった本田技研四輪開発センターの小野幸彦主任研究員によれば、ホンダとしては、究極のエネルギーは燃料電池だとみている。これは、水素と酸素の化学反応で電気エネルギーを生み出してモーターを回すもの。走行中に水しか排出しないのが特長だ。
環境問題を重視する同社にとってエタノール車は、燃料電池が実用化するまでの、中継ぎ車として位置づけられている。
〇五年の全世界での生産実績は三百四十一万台。〇六年(十一月まで)の販売台数では一位米国、二位日本、三位中国、四位カナダ、五位イギリスに続き、ブラジルはタイを抜いて六位に上昇。確実に生産台数を増やし、存在感を増している。
ライバルのトヨタは来年前半にはフレックス車を発売する。競争はますます激しくなりそうだ。