2007年1月17日付け
【ヴェージャ誌一九九〇号】ビッグ・スリーの二社GMとフォードが経営難に遭遇する中、ニッサン自動車を蘇生させ、ルノー本社の会長に抜擢されたロンドニア州出身のブラジル人カルロス・ゴーン氏は、インドのタタ自動車が超低価格車で国際市場へ乗り出そうとしていると述べた。部品の多くはプラスチックで、誰でも自宅の裏庭で組み立てられ、価額はたったの二〇〇〇ドル。コンピューターが、一〇〇ドルで売り出される時代に相応しい新型自動車だ。これは産業革命を意味するという。自動車産業は今や、油断すれば誰でも寝首をかかれる時代だと警告した。
以下は、同氏が指南する現代の生き残り術である。
【自動車がもたらしたもの】自動車は、人類が価値を創造する方法を二回見せてくれた。第一回はフォードによる流れ作業で、手作業を一掃したこと。この方法は全産業へ適用された。第二回は日本のカンバン方式である。これは、生活文化と消費文化へ変化をもたらした。
【自動車のパイオニア精神とは】自動車産業は毎日技術革新に挑む全産業の試金石である。自動車とは、あらゆる技術の集大成であり、雇用創出と投資促進の物差しなのだ。一自動車工場は竣工に四億ドルを要し、五億ドルを売上げる。微小の技術革新が大きな利益を生む産業である。自動車ほど人類を励ます商品は他にない。
【GMとフォードの経営難とは】経営危機は、事業経営の常である。起死回生を命じられたニッサン自動車は、米国へ輸出する車毎に一〇〇〇ドルを損していた。欧州のメーカーも軒並み、経営難に陥っていた。不思議なことに一方が経営難に陥ると、他方は業績がうなぎのぼりになる。
【経営難になる理由】消費者は自動車の排気量や生産技術、使用材料、販売価格、評判などに即時に反応する。中国やインドの自動車市場は五年前に存在しなかった。それが今は飛ぶように売れている。だから市場に対応するには、迅速に対処できる体制が必要だ。ダイナミックな経営環境が、画期的設計と好調な投資を生む。それができないなら、誰からも相手にされず経営難に陥る。
【自動車生産が厳しくなった理由】中国やインドの自動車会社は、想像を絶する僅少資本と超節約主義で生産し、運転資金がないため超低価格で販売する。既存のメーカーは、材料と時間の徹底的節約を忘れ、ぜい沢な経営環境に慣れた。新市場として見込めるロシアや中東、東南アジア、インド、中国では、現地に相応しい車種が主流になるから、既存の概念ではそうした市場に参入できないのだ。
【自動車生産技術の移転は】歴史は繰り返さないというのが私の持論で、ブラジル人は技術移転を誤解している。日本の技術は第二次世界大戦という犠牲を払って独自に開発したものであり、デトロイトのマネごとではない。中国やインドは自国市場に相応しい車種を自分で開発したのだ。
ブラジル人が歴史を誤解する限り、ブラジル市場は中国やインドによって食い潰される。ブラジルは、経済成長のため輸出促進に力を入れる。そのためブラジルも市場開放し、中国製やインド製の自動車を受け入れる。裏庭で二〇〇〇ドルの自動車を組み立てる日が、ブラジルにも来る。
【自動車の経営革新は】自動車産業に今、経営革新が起きている。これまで自動車産業は、同じ会社内で意思の疎通が欠けた。技師は技師に相談し、職工に相談しない。米国人熟練工は日本人と話をしない。同一会社で同一製品を作るのだから、意思の統一と連帯意識が必要である。上下の考えが、バラバラで経営の抜本改革はできない。全社一丸の連帯意識が、経営革新を起こす。