2007年2月24日付け
落語に「目黒のさんま」がある。鷹狩に出かけた殿様が、お腹が空き目黒でご飯を馳走になる。そのときのおかずが焼きたての熱い秋刀魚である。これが旨い。殿が城で食べるのは、骨を抜き内臓も捨てた冷たいものばかりである。そんなある日、城中で秋刀魚を食べたくなった殿様が「サンマを食べたい」と申し付けると例によって冷めたものが出される。そこで殿は「サンマは目黒に限る」と呟く▼佐藤春夫には「秋刀魚の歌」がある。谷崎潤一郎の妻・千代子を愛したときの詩で「さんま さんま さんま苦いか塩っぱいか。そが上に熱き涙をしたたらせてさんまを食らふは いづこの里のならひぞや」は若き学生らの胸を熱くしたものである。落語ではないが、塩を振った秋刀魚を七輪で焼くと煙がもうもうと立ち上る。それを皿に取り大根おろしを添えて食べる味は日本独特の美味甘味である▼サンマは北部太平洋の回遊魚なのでブラジルにはいない。日本には千島列島から南下し秋の名物である。今は鮫の鰭が有名になってしまったが宮城県の気仙沼港は、サンマの水揚げも多い。9月の旬には刺身がいい。伊達正宗の命令で欧州に向かった支倉常長が出航した石巻という街では、擂り身を団子のようなものにしたのを鍋に入れる「松葉汁」が天下一品なのだそうな▼その庶民派の名品?を日本から輸入し「サンマ大会」を開くところがある。新会館を建て元気のいい宮城県人会である。あそこにはクロマグロ水揚げ日本一の塩釜もあり漁業も盛んなのである。その本場から取り寄せた秋刀魚の味をしかと玩味したい。24、25日に開かれる。(遯)