2007年2月27日付け
「移民史料館を核にして、日系社会をいろいろなレベルで再活性化させるのが究極の目的です」。二十六日午前、百周年協会事務局で行われた「ブラジル日本移民百周年記念誌プロジェクト」の記者会見で、立案者である森幸一USP教授は、そう強調した。百周年を、一世が残した日本語史料を収集する最後の機会と位置づけ、全伯に研究員がおもむき、聞き取り調査や資料探しをする予定。その過程で各地の日系団体との連絡を密にし、新しい日系ネットワーク構築を目指す。松尾治執行委員長も「記念誌事業を中心に、記録関連のプロジェクトが一体となって協力していくようにしたい」と語った。
従来の記念誌はサンパウロ中心の記述であったが、今回は地方の歴史を重視し、複数巻(現在の予定では全六巻)で編纂する方針だ。毎年一巻ずつ出版し、五年がかりで完結させる。
まずは〇八年四月までに日伯両国で写真集『写真で辿る移民史』(仮題)を出版予定。その写真を使った写真展を同時に日伯で開催するプランもあり、両国側で積極的に取り組めば、市民レベルでの機運盛り上げにも役立ちそうだ。
すでに地方史料館とのネットワーク作りを進めている移民史料館の大井セーリア館長(共同推進者)は、「地方の史料館からも写真を提供してもらい、全伯の写真集にしたい」と強い意気込みをみせた。
研究員が全伯を回って行う調査内容の一部を、大井館長が関係する「文協ネット」に反映させることも考えており、文協と地方団体との再ネットワーク化にも関係する。
各地での聞き取り調査時にビデオ録画も同時に進め、百人程度の証言映像素材も残していく。
第二巻は『ブラジル日本人移民百年史総論』、続いて『ブラジル日本人移民史―地方・地域史』各論を二冊、分野別の各論『ブラジル日本人移民史―分野・ジャンル別個別史』、最後に資料編を想定している。
まずは日本語で編纂し、ある程度まとまった段階でポ語版を議論する。その中で、子供向けの日本移民史の絵本やブラジル社会向けの出版物も視野に入れることで、次の百年に向けた日系社会の再活性化を図りたいとする強い希望を持っている。
森教授は「広く日本近代史やブラジル近代史などの、大きな歴史的流れのなかに位置づけるという視点で記述する」との方針に加え、「日本移民がブラジル文明にどのような貢献をしてきたかを盛り込みたい」との意欲を述べた。
また、今までの移民自身による自伝的な記念誌と違い、日本から来てもらう大学院生レベルの研究員に調査を担当してもらい、事情に詳しい駐在員や日本側研究者にも協力を仰ぎ、学術的にも通用する内容や書き方にするとの考えを示した。
三月には、移民史や日系社会に広範な知識や経験を持つ有識者を中心に編纂・刊行委員会(十人程度)を組織する。その下に置かれる各巻小委員会が内容の具体的な検討をする。
総額二十七万ドル(概算)の資金調達に関しては、初年度分に関してはスダメリス銀行や個人の篤志家にお願いし、翌年分からは日本政府機関や日本財団、万博基金などにも協力を要請していく。
森教授は「〇八年を出発点ととらえ、数年がかりで作業を進める。その編纂過程を通して、中央と地方の関係や日伯の学術交流などいろいろなレベルで活性化していければ」と説明した。
写真展の素材を提供=08年日本側イベントに
記念誌第一巻の編纂過程で選ばれる百周年の歴史を代表する写真素材を、日本側に提供する企画が持ち上がっている。
来年日本各地で百周年関連イベントが行われると推測される。その材料に、ブラジル側から百数十枚の写真素材と説明文、ドキュメンタリー映像十数本をDVDなどの形で提供するアイデアだ。
日本側主催団体に、そのデータから写真パネルを作ってもらい、映像は上映会などに活用してもらう。
日本側の日伯交流年実行委員会に参加する地方自治体や、移民送り出し県、デカセギの集住都市などで写真展を開催してもらうことで、百年の歴史を持つ日系人の存在への理解を深めてもらう一助になると、百周年協会側では考えている。
そのイベント時に、百周年記念誌第一巻の写真集も同時に販売してもらい、開催地域の公立図書館や公立学校の図書館でも収蔵してもらえるよう働きかけたい、としている。