2007年2月28日付け
【ヴェージャ誌一九九四号】ロベルト・アブデヌール元駐米伯大使は定年退官に伴いブラジルの外交政策を、思想が実力に優先する片肺飛行だと批判した。ブラジルが中国をパートナーとみなし、通商協定の締結を考えたことを外務省の幻想だと同氏は警告した。アモリン外相は幻想発言の撤回を求めたが、同氏は拒否した。外務省を覆う近視眼的な左翼思想ドクトリンに対する同氏の批判は、辛辣であった。外交官の起用で思想偏重の実力軽視は現在も変わらないと糾弾。途上国との経済協力に偏り、軍事政権でもしないような愚を繰り返しているという。
以下は、同氏の現政権に対する外交政策批判。
【イタマラチー(外務省)に共鳴できないのは】時代遅れで反米的な南ブロック形成が外交政策の柱であること。外務省には思想マニュアルがあり、外交官の卵は一読を義務づけられる。外務省は下吏の登竜門ではない。誇りある外交官にとって、思想の特訓は屈辱以外の何物でもない。
外務省の風潮は実力者が閑職へ追いやられ、政治的にうまく立ち回り口達者なイデオロギーが幅をきかす。有為な人材が多数、労働者党(PT)とコネを持たないために左遷された。有能な外交官は先進国に有力な人脈を持つが、全く活用されていない。
軍政時代にも反共思想に偏ったことがある。しかし、外交官は任務遂行で事足り、反共思想を叩き込むような愚かなことはしなかった。軍政終焉後から前政権まで、思想的圧力は全くなかった。洗脳が始まったのはPT政権から。
【PT第一次政権の外交政策は】評価すべき点は、国連安保理の常任理事国入りで日本やドイツ、インドの支持を取り付けたこと。この努力は、アラビア諸国や東南アジア、中央アジア、アフリカ諸国との通商協定締結で報われる。IBAS(インド、ブラジル、アフリカ)同盟は、三大陸を結びドーハ・ラウンドで役立つ。それからハイチへの平和部隊派遣は有意義なことである。
【対外政策の誤りは】外交の重心を途上国偏重へシフトしたこと。冷戦終焉で世界は東西のすみ分けが行われたが、南北は旧態依然である。南北の対話は必要であり、南だけで結束し反米と世界の流れに逆流するのは賢くない。中国やインドは戦略的パートナーであるが、同盟国と考えるのは軽率である。
駐中国伯大使を務めたので、中国を熟知している。在任時代の中国は、超貧困と超時代遅れで世界から孤立した国であった。それが短期間にブラジルの八倍に当たる一兆八〇〇〇億ドルの外貨準備高を持つに至った。ブラジルは中国観を修正する必要がある。
中国は国際市場でブラジルの同盟国ではなく、競争相手なのだ。中国に対して安易な希望は絶対戒めること。ブラジルをリーダーとするG20連合結成など、バカにも程がある。中国の資本主義とグロバリゼーションは、ブラジルより遥かに進んでいる。
【ベネズエラとブラジル】思想的格差による対米外交の失地を南米で挽回するのは愚考だ。南米諸国をまとめるのは容易そうだが、見ての通り簡単ではない。ブラジルと周辺諸国の関連性は、メルコスルの歩調が合わないことでよく分かったはずだ。
ベネズエラのメルコスル加盟も誤りだ。メルコスルは、独自の力で発展すべきであった。チャベス大統領のメルコスル埋葬宣言は、メルコスルの侮辱である。チャベス大統領の考えは、メルコスルの将来と相容れない。物々交換の前時代経済へメルコスルを引き戻すという構想だ。ブラジルは、チャベス大統領の独断的な政治手法を看過してはならない。
【対米関係とFTAA(米州自由貿易地域)】FTAAにめくら判を押せとはいわないが、辛抱強く交渉を続けることだ。何しろ二兆ドルの桁外れ市場なのだ。米国は二国間協定を次々締結し、ブラジルは蚊帳の外にいる。対米貿易も十年間一・四%に留まり、ブラジルの縄張りは食いちぎられている。ブラジル政府が対米貿易に無関心なことが悔やまれる。