2007年3月21日付け
【ヴェージャ誌一九九九号】ブラジルは来る四十年間、経済成長率三・五%を保つことができるなら、世界のG6へ仲間入りすると英国の経済学者ジム・オニール氏が予測する。同氏が期待するG6とは、ブラジルと中国、インド、ロシア、米国、日本である。同氏はBRICS命名の親であり、四十年後に世界の覇権を握る国家像を経済力と人口の稼動力で予測する。ブラジルがG6に参画するためには、政府は無駄遣いを止めて、資金が有効に利用される体質を作らねばならないという。
次は、同氏がブラジルの発展に寄せる思いである。
【経済活性化法案(PAC)について】世界を見渡すと、政府が投資をしたから経済が活性化した例はない。基本金利を段階的に引き下げるのはよいが、保守的に過ぎる。あとは民間活力が盛り上がるしかない。
インフレの低下とともに財政状態も好転しなければならない。ここで経済活性化の鍵は、政府の経常費といえる。基本的には国民と中央銀行がお互いに信じ合うことが必要。それがないと基本金利は下がらないし、ブラジルへの投資も促進しない。結局、経済も活性化しない。
【為替率と経済活性化】経済不振の原因を為替率に転嫁するのは、間違いである。原因は生産性にある。ブラジルの生産性が先進国の生産性に較べて優るなら、為替問題は霧消する。為替率はもっと上手に利用すべきである。
【構造改革と経済活性化】なすべき構造改革は、三つある。一は低率インフレ。外資誘引の必須条件である。二に政府の投資環境整備。投資家が安心して投資できる条件を完備すること。三は、アジアまたはEUへ進出すること。サッカー選手が抵抗なく世界へ出て行くように。
【投資が中南米からアジアへ流れるのは】日本とドイツの戦後復興以来、経済のスーパーサイクルが中国とインドで起きているのだ。それとブラジルを比較する理由はない。ブラジルに落ちるべき外資を、中国やインドに横取りされても心配無用である。
それは米国で南北戦争以後、起きた近代化の流れと同じである。中南米には、近代化を促した流血事件は起きなかった。中国とインドは多大な犠牲を払って、現在と将来への改革を実施したのだ。これをブラジルにマネしろといっても、無理なことだ。
【ブラジルの有利な面】ブラジルは一次産品では、誰も右に出ない原料大国である。しかも中国とインドはそれを必要とし、補完関係にある。ブラジルは引き続き、原料生産に賭けるべきではないか。
【米国市場とBRICS】米国は現在までの大市場である。FTAA(米州自由貿易地域)やアフリカ、その他もよいが、来る十年は大量の原料を将来有望な中国やインド、ロシアへ供給したら、ブラジル経済は十分発展する。
上海発の世界同時株安は、中国経済の冷え込みの始まりというが小さな調整に過ぎない。中国経済のパワーは想像するより大きい。調整は健全化の証拠だ。中国経済の減速は取るに足らない。成長率が一一%から九・五%位に落ちるだけで、中南米経済の減速とは訳が違う。心配は不要。
【インドと中国】両国は似ているが、事情は全く異なる。インドは慢性的な財政赤字を抱え、生産性では改革せねばならない課題をたくさん抱えている。その点中国は、様々な面で先行している。中国の政治手法は即断即決方式だ。
インドは曲りなりにも民主国家である。しかし、それが有利か不利かは分からない。一一億の人口を抱える国が、短期間に国民の意思を統一するのは容易でない。それを中国は一三億国民の意思統一を成し、国民のパワーは一方向で団結し機能している。
民主主義が完全に有利というわけではない。一〇億以上の人口を抱える大所帯では、民主方式はのろくて時代の波に乗れない。経済発展という面から見たら、中国やインドのような国では、民主主義が機能しない。民主主義は社会が整頓された国向きだ。
【ブラジルが学ぶこと】財政黒字を守りながら、経済発展をスピード化すること。政府や民間は何をしてものろい。政府は産業に口を出しすぎる。産業界は待ちの姿勢でなく、攻めの姿勢で臨むこと。