2007年3月27日付け
□生物学創世記のアマゾン河の探検
「身近なアマゾン」という題で始まった本連載、ここら辺で生物学の歴史方向からのアマゾンについて、筆者の知識から基本的な事実について述べておこう。 生物学といっても筆者はその道の専門学者ではない。しかし、たまに女装のおっさんに追いかけられたりたりもしたが、この世界でなんとか二十年生活してきた。そういう生活追求活動という観点からの話となる。
アンデスに発する分水嶺から河口の町ベレンまで、全長六千五百キロといわれるアマゾン河、その流域面積は日本の国土の十五倍と言われている。日本が約十五個すっぽり入る世界最大の熱帯雨林ということになる。ちなみに信濃川は日本最長で三百六十七キロだそうだ。我が清流?チエテ川にも及ばない?
西暦一五〇〇年、ポルトガル人アレバレス・カブラルによってブラジルが発見された、というのが歴史上の定説になっている。が本当のところは、ずっと前からヨーロッパ人には南米大陸の存在は知られていたはずではないだろうか。
今回は、そんな創世記の話ではなく、もっと下って一八五〇年代の話、世界の学問の基礎とされるヨーロッパ、とくに科学先進国という英国での話になる。
一五〇〇年にブラジルが発見されて、ポルトガルの占領地となり、彼らに必要とされていた砂糖などのプランテーションが始まり、最初は現住民インディオが駆り出され、使役されたが、定期労働習慣のない彼らでは役に立たず、苦肉の策として商品として一五三〇年頃から既に奴隷がアフリカから入れられている。
この奴隷制度も一八五〇年ころから、人道上の問題からか流入が途絶え始め、代替労働力が求められるようになり、ヨーロッパのイタリアなどからの移民が来るようになった。そして一八八八年、奴隷制が廃止される。
この時代を期に労働力のみならず、南米大陸の学問的見地からの学者らも調査に来るようになったようだ。
一八〇〇年代は大英帝国の資力、権力を基盤にして、ダーウインらの学者が活躍を始め、一八五九年に「種の起源」というヨーロッパ宗教、教育界のみならず世界の常識に転変地変をもたらす科学発表が出版されるに至る。
最近、そのダーウインが脚光を浴びて、NHKでも「種の起源」を題材にした番組が放送されている。このダーウインの子分というか、情報提供者に二人の採集人が当時のアマゾンに入っている。
一人はウオーレスという男、鳥の専門家でとくにインコを多く採集している。もう一人はベイツという男で、ウオーレスと同じ時期にアマゾンを訪れて、各地を回ってその土地の特産品や動植物、文化の収集にあたっている。
最近彼ら二人がそれぞれ書いた非常に詳しい探検記的な日記の日本語訳が出版された。両冊子とも膨大な資料と日記の翻訳で、このようなすごい本を訳す人の〃ご尊顔を拝したい〃というような積読タイプの本である。
筆者はそんな本を寝床に持ちこんで、なんとか読破したい、と考えたのだが、この本が毎晩の催眠促進剤となってしまって、毎晩一ページも読まないうちに、夢の世界に誘ってくれる。
普段のことが詳しく書かれている。「今日はインディオ部落にファリーニャ(マンジョッカの粉)を買いに行ったが、売ってくれなかった」というような。しかし、百五十年前にアマゾン河を回って、どんなことを考え、どんな事故に遭い、それをどう解決して、結果どんなものを英国に持ち帰ったか、という現在の自分が知りたいことを知れる非常に有用な資料になっている。
ダーウインという人は本来的な学者であったが、他方二人、アマゾンの物産や未知の動植物、鉱物を求めて旅をしたベイツもウオーレスも、どちらかというと商売人気質があったようだ。彼らの時代から私なんかの百五十年もたった現在、アマゾンで採集活動をしている人間には同じ感覚のようなものが方々で数多く感じられる。
彼らに「女性の陰部の匂いのする魚」を追っていた形跡はないが、魚採りにも励んでいる。彼らの時代はもっとレベルの低いものが大半の目的物だったようだ。ただ当時の彼らが経験した苦労というのは、現在では考えられないような状況であることは言うまでもない。
まず石油動力がまだ発明されていないこの時代、風の力と人力だけで大西洋を横断して、ヨーロッパから南米大陸に達するまでが大苦労。われわれ日本人移民の比ではない。そんな二人の探検家兼採集人が回った大半の土地を、現在の自分が回っている、という感覚もあって、当のアマゾン河も百五十年前当時とあまり変化していない現状がある。
次回は、そんな二人の探検家の一人、ウオーレスが歩んだ道を、私の現在の経験から検証してみたいと思っている。つづく (松栄孝)
身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
身近なアマゾン(7)――真の理解のために=インディオの種族滅びたら=言葉も自動的に消滅?
身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
身近なアマゾン(9)――真の理解のために=南米大陸の三寒四温=一日の中に〝四季〟が
身近なアマゾン(10)――真の理解のために=アマゾンで凍える?=雨季と乾季に〝四季〟感じ
身近なアマゾン(11)――真の理解のために=ペルー国境を行く=アマゾン支流最深部へ
身近なアマゾン(12)――真の理解のために=放置、トランスアマゾニカ=自然保護?改修資金不足?
身近なアマゾン(13)――真の理解のために=クルゼイロ=アクレ州の小川で=狙う未知の魚は採れず
身近なアマゾン(14)――真の理解のために=散々だった夜の魚採集=「女装の麗人」に遭遇、逃げる
身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
身近なアマゾン(16)――真の理解のために=私有地的に土地占有=貴重な鉱物資源確保目的で
身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ
身近なアマゾン(19)――真の理解のために=異臭発しても観賞魚=円盤型、その名の意味は?
身近なアマゾン(20)――真の理解のために=ディスカスの自衛方法=筆者の仮説=「あの異臭ではないか」
身近なアマゾン(21)――真の理解のために=タパジョス川の上流に=今は少ない秘境地帯
身近なアマゾン(22)――真の理解のために=ゴールドラッシュの終り=河川汚染もなくなった
身近なアマゾン(23)――真の理解のために=環境破壊を防ぐ行動=国際世論の高まりのなかで
身近なアマゾン(24)――真の理解のために=乱開発された土地に大豆=栽培の競合もつづく
身近なアマゾン(25)――真の理解のために=コロンビアとの国境近くで=知人の訃報をきく悲哀
身近なアマゾン(26)――真の理解のために=インディオの「月」の解釈=ネグロ川上流できく
身近なアマゾン(27)=真の理解のために=肥沃な土地であるがゆえに=自給自足生活が営める
身近なアマゾン(28)――真の理解のために=モンテ・アレグレの壁画から=古代日本人の移住を思う
身近なアマゾン(29)――真の理解のために=人間に知られないまま絶滅=そんな生物も多かった?
身近なアマゾン(30)――真の理解のために=命を賭した移民の開拓のあと=説明できない悲哀が…
身近なアマゾン(31)――真の理解のために=漁師に捕獲されれば=食べられてしまう=ペイシェ・ボイ「雄牛魚」
身近なアマゾン(32)――真の理解のために=日本語を話した?カワウソ=すごく笑いがこみあげて来た
身近なアマゾン(33)――真の理解のために=自然保護活動と山火事=何億の動植物が灰になる?
身近なアマゾン(34)――真の理解のために=根本的な自然保護策は?=道をつくらないこと
身近なアマゾン(35)――真の理解のために=ブラジル全域で哀悼の意=英雄セナの死に際して
身近なアマゾン(36)――真の理解のために=忘れ得ぬセナの輝き=それはブラジルの輝き