2007年4月12日付け
探検採集人ウォーレスとアマゾン盆地(1)
一八五〇年代に活躍したダーウイン。「種の起源」という科学原論のような進化論を発表した有名な学者である。
生物学を志す学者の出発点のような存在であるが、彼がその論文を発表するまでの過程は、大変なものだっただろうと思う。当時は、宗教の流れに逆らう者は極刑に値した時代だからだ。科学を研究すること自体、命がけだったと思えるからだ。
そんな彼の論文を支える助手的存在だった一人に、ウオーレスという学者なのか採集人なのかよく分からない男がいた。本名をアルフレッド・ラッセル・ウォーレスという。筆者も高校時代に生物の時間に「ウォーレス線」という生物境界線の存在でこの人の存在を知っていた。
インドネシアのバリ島とロンボク島の間で区別される、という種の区別線ということで知られている。この線でアジア系とオーストラリア系に区別されるという。オーストラリアには有袋動物が存在するが、アジアにはいない、その境界線ということなのだろう。その他カモノハシとか魚類ではハイギョなども特産。
当時の現地状況を考慮すると、ウォーレス氏が採集人でなければ、このような境界線は見つけられないはずで、新しい何かを見つけようと必死になっていたことが想像できる。命がけの仕事でなければ、このような発見は難しいと思う。
机上の学問では、新種、別種の発見はできないという物理的要素があるからだ。
収穫物を祖国英国に持ちかえって、ダーウインさんあたりと収穫物整理しているうちに、採集区分理論を推し進めたら、偶然このラインが浮かび上がってきたのかもしれない、というような想像をしている。
ウォーレス氏は一八四八年から一八五二年までの四年間、アマゾン河流域に入っている。正確には一八四八年五月二十六日アマゾン河口ベレン辺りに到着し、一八五二年十月一日祖国英国に帰り着いている。同じ頃に、同僚のベイツというもう一人の採集人が同じくアマゾンにはいっている。ウォーレス氏は何を思ったのか、滞在の半分くらいの時間をマナウスから北上しているアマゾンの一大支流ネグロ川に入っているのだ。
一九九四年頃、初めて筆者はネグロ川に入った。その後、今年二〇〇七年で十三年目となるが、ネグロ川には合計五十回以上かよっている。一回の滞在期間が平均十日としても、五百日以上延べ二年ちかくネグロ川にいる計算になる。
特に二〇〇一年には、現地のインディオ先生に依頼されて、コロンビア国境のブラジルが終わる地域までインディオ調査にでかけている。そんな経過を経て、日本人というか、インディオ以外の文明圏からきた人間がこのネグロ川上流地域に入ったのは、筆者が初めてであろう、という意識があった。 つづく (松栄孝)
身近なアマゾン(1)――真の理解のために=20年間の自然増=6千万人はどこへ?=流入先の自然を汚染
身近なアマゾン(2)――真の理解のために=無垢なインディオ部落に=ガリンペイロが入れば…
身近なアマゾン(3)――真の理解のために=ガリンペイロの鉄則=「集めたキンのことは人に話すな」
身近なアマゾン(4)――真の理解のために=カブトムシ、夜の採集=手伝ってくれたインディオ
身近なアマゾン(5)――真の理解のために=先進地域の医療分野に貢献=略奪され恵まれぬインディオ
身近なアマゾン(6)――真の理解のために=元来マラリアはなかった=輝く清流に蚊生息できず
身近なアマゾン(7)――真の理解のために=インディオの種族滅びたら=言葉も自動的に消滅?
身近なアマゾン(8)――真の理解のために=同化拒むインディオも=未だ名に「ルイス」や「ロベルト」つけぬ
身近なアマゾン(9)――真の理解のために=南米大陸の三寒四温=一日の中に〝四季〟が
身近なアマゾン(10)――真の理解のために=アマゾンで凍える?=雨季と乾季に〝四季〟感じ
身近なアマゾン(11)――真の理解のために=ペルー国境を行く=アマゾン支流最深部へ
身近なアマゾン(12)――真の理解のために=放置、トランスアマゾニカ=自然保護?改修資金不足?
身近なアマゾン(13)――真の理解のために=クルゼイロ=アクレ州の小川で=狙う未知の魚は採れず
身近なアマゾン(14)――真の理解のために=散々だった夜の魚採集=「女装の麗人」に遭遇、逃げる
身近なアマゾン(15)――真の理解のために=眩しい町サンタレン=タパジョス川 不思議なほど透明
身近なアマゾン(16)――真の理解のために=私有地的に土地占有=貴重な鉱物資源確保目的で
身近なアマゾン(17)――真の理解のために=近年気候変異激しく=東北地方、雨季の季節に誤差
身近なアマゾン(18)――真の理解のために=ピラニアよりも獰猛=サンフランシスコ川=悪食ピランベーバ
身近なアマゾン(19)――真の理解のために=異臭発しても観賞魚=円盤型、その名の意味は?
身近なアマゾン(20)――真の理解のために=ディスカスの自衛方法=筆者の仮説=「あの異臭ではないか」
身近なアマゾン(21)――真の理解のために=タパジョス川の上流に=今は少ない秘境地帯
身近なアマゾン(22)――真の理解のために=ゴールドラッシュの終り=河川汚染もなくなった
身近なアマゾン(23)――真の理解のために=環境破壊を防ぐ行動=国際世論の高まりのなかで
身近なアマゾン(24)――真の理解のために=乱開発された土地に大豆=栽培の競合もつづく
身近なアマゾン(25)――真の理解のために=コロンビアとの国境近くで=知人の訃報をきく悲哀
身近なアマゾン(26)――真の理解のために=インディオの「月」の解釈=ネグロ川上流できく
身近なアマゾン(27)=真の理解のために=肥沃な土地であるがゆえに=自給自足生活が営める
身近なアマゾン(28)――真の理解のために=モンテ・アレグレの壁画から=古代日本人の移住を思う
身近なアマゾン(29)――真の理解のために=人間に知られないまま絶滅=そんな生物も多かった?
身近なアマゾン(30)――真の理解のために=命を賭した移民の開拓のあと=説明できない悲哀が…
身近なアマゾン(31)――真の理解のために=漁師に捕獲されれば=食べられてしまう=ペイシェ・ボイ「雄牛魚」
身近なアマゾン(32)――真の理解のために=日本語を話した?カワウソ=すごく笑いがこみあげて来た
身近なアマゾン(33)――真の理解のために=自然保護活動と山火事=何億の動植物が灰になる?
身近なアマゾン(34)――真の理解のために=根本的な自然保護策は?=道をつくらないこと
身近なアマゾン(35)――真の理解のために=ブラジル全域で哀悼の意=英雄セナの死に際して
身近なアマゾン(36)――真の理解のために=忘れ得ぬセナの輝き=それはブラジルの輝き
身近なアマゾン(37)――真の理解のために=ダーウィンへの情報提供者=150年前、探検・採集していた