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身近なアマゾン(41)――真の理解のために=珍魚採集を欲張ると…=飛行機まで遅らせてしまう

2007年4月17日付け

 □ネグロ川からの帰り道。飛行機に揺られて(1)
 〔行きはよいよい、帰りは怖い〕という童謡の歌詞を皆さんはご存知だろう。今回は、そんな童謡の歌詞を地でいってしまった話をしよう。
 マナウスの空港から小型のバンデイランテス型という日本のセスナ型によく似た小型飛行機に乗って三時間、ネグロ川を約千キロ遡ったブラジル領域の最上流にサン・ガブリエル・ダ・カショエイラという町がある。ここの話は前にも述べている。
 この町はブラジルと隣接するベネズエラ及びコロンビア国境まであと二百キロ程という辺境の位置にある。このサン・ガブリエル・ダ・カショエイラは、〔聖ガブリエルの滝〕という意味で、その言葉の示すとおり、大きな滝があって、ネグロ川では最大の〔難所〕となっている。
 このサン・ガブリエルの町まで来ようとすると、現在であれば飛行機で三時間余りで到着するが、船の便では足掛け四日、動力船のなかったころは川を上がってくるのに、上りは四カ月、下りで二カ月以上もかかったのだそうだ。蒸気機関以前の特別急ぐ旅でも、飛脚のような人力高速カヌーで漕ぎ上がって二月もかかったと言われている。
 筆者がここを訪れるきっかけになったのは、つぎのような事情だ。一部の熱帯魚マニアの人であれば知っているかもしれないが、南米大陸特産の魚にアピスト・グラマという学名をもった小さな魚がいる。そのアピスト・グラマの中に、最近まで日本に一匹も来ていなかった種類の魚がいる。ネグロ川上流にしかいない、収集家マニア乗涎の魚を採集に来ることになったからだ。
 一九九四年の初頭からこの土地で活動を始めて、もう十回以上、この地とサンパウロと成田を往復することになってしまった。何故そこまで入れあげてしまったか、というと、勿論この尋常な方法では採集できなかった超美麗種の魚が原因なのだが、もうひとつ原因があって、このインディオしか住んでいない未開の土地の景色の美しさに魅せられてしまったこともある。
 この地に通うようになって、これまでに十二回、直接この土地に来る飛行機に搭乗して来たが、段々この土地の事情が分かってくるに従い、別のルートがあることが分かってきた。
 そのルートは、ネグロ川に沿って川の上空を北上する元来のルートではない。イレギュラー的にアマゾン河本流を上流に上り、五百キロ程上流にテフェという町がある。このテフェから直角に北上して、このサン・ガブリエルに到着する、というルートなのだ。テフェという所には、テフェ湖という有名な湖があって、有名な珍しい魚がいる。
 人間、何事にも、慣れてくると段々横着になってきて、「欲」というやっかいな物が芽を出してきて、上下前後左右関係を見誤ってしまうことがおこり始める。
 この旅でも、サン・ガブリエルの綺麗な魚を採って、おまけにこのテフェに寄って、また綺麗な魚が採集できれば〔これは素晴らしいことだ〕と思うにいたってしまった。
 後で考えれば(こういうのを反省猿というのか)、サン・ガブリエルでアピストを採集してサンパウロに持ち帰るだけでも、それこそ大変なリスクがあるのに、その上に別の所に寄って、〔もっと魚を採ってやろう〕そんな欲がもたげてしまって実行したのだ。
 サン・ガブリエルでの予定をなんとかこなして、魚を採集できて、今度はテフェで綺麗な魚を採集してやろうと焦ったあまり、一番大切なリュックサックをホテルに忘れてきたのに気が付いたのだ。
 航空会社支店長のパウロさんに頼んで、〔なんとか飛行機の出発を遅らせて欲しい。すぐ財布や切符の入ったリュックを取って来るから〕と言い置いて、連れて来てくれたタクシーに頼んで、すぐにホテルに引き返した。ホテルのロビーの長椅子に置いたリュックサックが無事でありますように、と祈りながら。
 ホテルに着いて、飛び込むと椅子には、リュックがそのままの状態だった。「ほっ!」として、受付のお姉さんにお礼を言って、早々に空港に引き返す。待ってくれているはずのカウンターに直行、結局、飛行機は、私のお陰で二十分遅れての出発することとなった。「飛行機を遅らせたには三回目だ」と独り言。
 〔こういうところがブラジルの良いところだなー〕冷房の真っ白な冷気が直接顔にあたって、汗と冷や汗で濡れた体に心地よく感じながら、出発した飛行機のシートで〔独り言〕をつぶやいていた。つづく
       (松栄孝)

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