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露と消えた「核廃止論」=核拡散と原発推進で空論に

2007年4月25日付け

 【エスタード・デ・サンパウロ紙十九日】ブラジルの格言で「人は老いて孤独になると悪魔になる」という。考え方のピントがずれてくるという意味だろうか。それらしきものがキッシンジャー元国務長官の「核廃止論」だと、ジョゼ・ゴウデンベルグ・サンパウロ総合大学(USP)元学長がいった。
 ブラジルは核濃縮の技術を有しながら、イランのように国際社会から疑惑の目で睨まれていない。それは一九九二年、アルゼンチンとの間に核物質管理協定を結んだからだと思われる。同協定は、両国が豊かなウランを背景に原発用の核開発を行うと宣言した。
 これがなければ、ブラジルはイラン並みの扱いを受けたかも知れない。イランは火力発電用のガスを十分に埋蔵していたので、ブラジルのように原発用の核開発宣言をしていなかったのが、今日の疑惑を引き起こした遠因ではないか。
 米国は六十年前、唯一の核保有国であった。間もなくソ連も核保有国入りを果たし、米国の一人舞台は終わった。核保有を世界平和の道具にしようと企てたのが、キッシンジャー氏である。それには、米ソ両国が同程度の核を保有することであった。
 しかし、現在は英国やフランス、中国に続いてインド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮などがある。さらに疑惑国として、イランも核保有国の仲間入りをしそうだ。過激派グループの核兵器入手が容易となったことで、平和の道具化は夢となった。
 その後の核協定はドン・キホーテの戯曲のようだ。イスラエルや北朝鮮は祖国防衛という大義名分で核保有にしがみ付いている。そこでキッシンジャー氏が、核弾頭用のウラン濃縮と核実験は全面禁止することを提案した。
 再生可能エネルギーの最終結論は原子力発電だといわれる矢先、キッシンジャー案は米国でさえ反発を呼んだ。米国は過去二十五年間、リアクターの改良が頓挫し、新たに原発を建設していない。改良された新型リアクターはプルトニウムを使用し、核兵器への転用も可能なので核拡散につながる懸念がある。
 核拡散防止条約は一九六七年、核兵器の未保有国に軍事目的の核開発や核実験を禁じるため調印された。既保有国も段階的に核兵器を廃棄するはずであったが、条約を守っていない。国際原子力委員会(IAEA)の査察や安保常任理事国のけん制にもかかわらず、同条約は北朝鮮やイランを見る限り機能していない。