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コラム 樹海

2007年4月28日付け

 北方領土の返還問題で知られるエリツイン前大統領が逝く。故・橋本龍太郎首相との交渉は難航もしたが、それでも解決へ向けて一筋の道が開けたかのような印象を与え「歯舞や色丹が返ってくる」と喜びに包まれたりもした。だが、現実は厳しく、今もロシアの「領土」である。尤も、故人は自伝で「返す意思はなかった」と明記しているそうだから、あれはジェスチャ―だったのかもしれない▼それにしても、異能で大胆な大統領であった。旧ソ連を崩壊に導き、ロシアを建国して初代の大統領に就任、桎梏と冷厳から国民を開放し改革を主導した政治は末永く語り継がれるだろう。今も忘れられないのは91年6月に起きた共産党極左によるクーデターのとき戦車の上から市民に「抵抗を」叫び獅子吼した雄姿である。あのテレビ放映は感動的であり、この闘志がロシア初代大統領に繋がる▼とにかく開けっぴろげな政治家で演奏中のロックバンドの舞台に飛び込んで上着を放り出して軽軽しく(いや、重々しく)足をふり上げて踊りまくる。クリントン前大統領との会談も笑いが絶えなかったそうだ。スターリンやブレジネフの冷たくも冷厳な表情とは異なり、笑顔と愛嬌に満ちていたのがいい。この「笑い」が新ロシアの建設にどれだけ力を発揮したことか―である▼25日の国葬はモスクワにあるロシア正教の総本山で営まれたが、恐らく―「宗教は阿片」とする旧ソ連の指導者で宗教的な施設での別れはないのではあるまいか。墓地もクレムリンではなく、ノボデビッチ修道院に埋葬と将にソ連打倒の「反逆者」らしい意義を記憶に留めたい。 (遯)