2007年5月4日付け
【既報関連】来伯中の石毛直道・国立民族学博物館名誉教授と、奥村彪生(あやお)伝承料理研究家の両氏は、四月二十七日、国際交流基金サンパウロ日本文化センター(西田和正所長)で、同会場二度目の講演会を開催した。ブラジル人の「肉好き」に対し、古来から伝わる伝統的な日本食は、魚が中心。日本で肉料理がどのように取り入れられてきたか、また現代の日本食はどうあるかについて、「Veja」誌の食文化ジャーナリストのアルウルド・ロレンサート氏を対談者に迎え、約百人の観客を前に、笑いの多い講演会を披露していた。
日本では、仏教の影響を受けて、肉を食べることは〃けがれる〃ことと結びつけて考えられてきたため、肉料理が食事に登場するのは、一八六七年の明治維新以降になる。
石毛氏は「現代の日本人は肉やバター、パンを多く食べるようになり、『食の国際化』や『欧米化』が進んだといわれているが、はたしてそうなのか」と、問題提起。一九七二年に自身が行った調査をもとに、日本人の食習慣を説明した。
原則、日本では一度の食事に主食は一つで、麺類は主食の一種であり、ご飯とは合わさない。また日本人にとって、パンは西洋風のおかずのみと合わせ、閉鎖的であるのに対して、ごはんは和風、中華風、西洋風と何でも合わす、開放的な食べ物だそうだ。
飲み物にしても、パンとともに食すのは、お茶ではなく、コーヒーや紅茶など西洋からもたらされたもので、区別されている。
また、日本での中華料理や西洋料理は、箸でもつまめるように、米に合うようにと、日本的なアレンジが施されている。
これらのことから、石毛氏は「現代の家庭料理は、国際化、西欧化したのではなく、外国食を『日本化』させたもの。外食を取り入れ、新しい日本人の食事を生み出しつつある」と結論づけた。
続く、奥村氏、ロレンサート氏を加えての対談では、奥村氏は「牛肉食は下級階層から広がった文化」と紹介し、現代の日本の肉料理には「伝統的日本の調理法による肉料理と、西洋の調理方法を取り入れた肉料理がある」。
肉料理に日本の技術を取り入れたものの例として、魚を煮る技術を応用した、すき焼きや肉じゃが。外国技術を生かしたものには、フランスのカントレットを応用したトンカツや、中国の技術からもたらされたしゃぶしゃぶなどが当てはまるという。
奥村氏は、肉食を取り入れたことの影響について、「まだまだ、日本人の食事は精神論が先行し過ぎている。もっと食べることの楽しさがあっていいと思う。肉食の影響がまだ足りていない」と応えていた。
石毛氏は、約十日間の滞在を経て口にしたブラジルの日本食を「日本文化のコンテクストで見るとおかしい。だが、ブラジル人がそれをおいしいと思うのなら、いいだろう」。
さらに、「日本では完成されていて新しいものが出てこない中、ブラジルでデザートにもなる寿司がある。そのうち日本へ逆輸入されればいいな」と、肯定的な展望を語った。