2007年5月10日付け
【フォーリャ・デ・サンパウロ紙九日】ローマ法王ベネディクト十六世の来伯を控えルーラ大統領とテンポロン保健相、フレイレ女性問題相は八日、妊娠中絶は公衆衛生の問題であり、好んで行うものではない考えを示した。妊婦救命が目的であり、中絶で女性を咎めるものではないとする声明を発表した。保健相は、中絶反対をカトリック教会による政治への干渉だと批判。ブラジル司教会議(CNBB)のドン・マジェラ大司教は、性教育におけるコンドームの使用奨励は、教育の域を外れ、道徳の退廃と国家の繁栄を混同するものだと非難した。
ローマ法王ベネディクト十六世はブラジルに五日間滞在の予定。同法王はヨハネス・パウロ二世に続いて、ブラジルを訪問した二人目の法王である。ブラジルはカトリック教会イエズス会派の修道士によって開拓の斧が入った国で、宗教界への隠然たる影響力は現在も疎かにできない。
大統領は、カトリック教会が自己判断の権利を擁護し、最善と思う決断を行える年齢を設定すべきであるとした。ブラジルでは一九九七年、婦女暴行と母体の危険が認識された場合、公立病院での中絶を認める法律が承認された。それ以外の中絶は、三年以下の禁固となっている。
関係閣僚はテーマが微妙な問題であり、杓子定規に断定すべきでないと教会に苦言を呈した。教会の判断は「規律は人間のためにあり、規律のために人間があるのではない」とするキリストの教えから乖離していると批判した。
ブラジルでは現在、年間一〇〇万人の妊婦が密かに中絶手術を行っている。保健相は、中絶の是非を巡って国民投票の実施を提案した。教会は国民投票に向けて中絶反対のキャンペーンを展開するらしい。産児制限や人口減少は、長い歴史から見て国家の衰運というのが教会の見方だ。
ルーラ大統領によるベネディクト十六世の歓迎式典が予定にあるが、中絶問題は議題にない。ローマ法王は、民主政治の強化によって中南米の暴力や麻薬、治安、格差、失業、教育対策を指摘する意向だ。中南米の政治は全般に社会政策が疎かで、特に貧困家庭と孤児への福祉を訴える。
ブラジル出身のフムメス枢機卿は、法王に同行来伯。同枢機卿は、法王の訪伯目的は道徳問題ではなく、政治問題であると述べた。だからブラジルで懸念される中絶是非やゲイの結婚は、議題に上がらないという。法王庁は国際情勢を憂慮している。教会は宗教的ドグマに固執せず、現実的で普遍的な対処を検討しているというのだ。
カトリック教会が直面している問題は、信仰と実生活の関係である。教会の信条が信徒の実生活に何の役にも立たないことで、信徒の教会離れが起きたのだ。信仰は実生活の起爆剤にならねばならない。実生活を盛り立てない信仰は無用の長物であると同枢機卿は持論を展開した。
ローマ法王の呼びかけは、カトリック信徒だけではなく、人権無視が日常茶飯事にまかり通る中南米へ向けたもの。世界は通商協定ばかりでなく、政治犯釈放のための協力協定や政治協定が必要である。法王庁は宗教の本山ではなく、人間性を論じ、信仰と現実を結びつける話がなされる場所だという。