2007年5月15日付け
□ネグロ川からの帰り道。飛行機に揺られて(2)
ようやく落ち着いて、周りの状況が目に入るようになった。この飛行機は初めて乗る機種で、今までのものより少し大きい三十人位席があるようだ。
ボディにDASH―200と書かれていたことは、機に乗る時に見ていた。主翼の位置が機体の最上部に付いていて〔水上飛行機みたいだなー〕と思っていたのだ。
後日、日本の航空機にくわしい人にきいたのだが、このDASH―200という機種は、極地発着用としてカナダ軍によって開発された「バッファロー」型と呼ばれる、イモムシ型の飛行機の改良型だそうだ。非常に安定性があって、特に滑走距離が短くて済む、という優れもの飛行機だそうだ。
飛行機は順調に飛行を続け〔そろそろテフェに到着する頃かな〕と思いながら、窓から地上の眺めを見ていた。
下界は三十三年ぶり、という極度に干上がってしまって、田んぼの水路と溜まり池のようになってしまったテフェ湖だったのだ。その景色を食い入るように見ていた。
しばらくして、このローカル路線では珍しいスチュワーデス(女性乗員)の「只今から着陸態勢に入ります。安全ベルトの着用をお願いします」というアナウンスが聞こえてきた。そのアナウンスが終わった瞬間。「ドーン!」という物凄い音響で、機体が落ちるように下がったのだ。
大きなエアーポケットに落ちた、と思った。
その瞬間ビックリして後ろへひっくり返り、体の固定ができなくなった。咄嗟に前の席の背もたれしがみついた。その瞬間から間髪をおかず〔ドーン、ドーン、ドーン〕、車が大きくノッキングする状態にプラスして上下左右運動の繰り返しが始まったのだ。
まるでジェットコースターの最前席にのった状態で、前席の背もたれに抱きつき、安全ベルトだけでは体が吹き飛ばされそうになるのを、両足を踏ん張って必死で体を保持する。
訳が分からず〔あー、俺もこれで終わりかなー〕など色々考えながら窓を見る。窓は雨が真っ白になってガラスに激しく吹き付けて、雨水が川のようになっている。
このおりの恐怖心というのは言葉に表しにくい。なにしろ気持ちが完全に萎縮している。
少し気を取り戻して(この間も間断なくドーン、ドーンが続いている)周りの様子を伺うと、女の人が何か大声叫んでいる。意味はわからないが、神様に聞こえるような大声で叫んでいるようだ。あの人、おれより怖いのだなー、と思って若干救われる気持ちになる。
人間パニック状態になると、一時的に精神がおかしくなる人が出てくるのだろう。
十二人の乗客は、彼女以外はシーンと静まり返っている。みんな何を考えているのだろうと思っている間も〔ドーン、ドーン〕という地響き音とショックを受けながら、相変わらずオバさんは大声で訳の分からないことを怒鳴るように泣き叫んでいる。
しかし、そんなことはどうでも良いことだ。何しろこの場面から逃げ出したい一心。
前席の背もたれに、胸部レントゲン写真を撮るような姿勢でしがみついて、腰の部分だけが安全ベルトで座席に固定されているスタイル、まるでミンミンゼミだ。
そんな姿勢でしばらくすると、今度は機内が暗くなってきた。時間は午後二時半のはず、一日でもっとも明るくならなければならない時間帯なのに、薄暗くなってきた。
機内は相変わらず軋み続け、〔ドーン、ドーン〕とエアーポケットに落下の連続。
完全なパニック状態、時折前の方を恐る恐る見ると、暗い機内の機体が地面に向かって一直線に落下しているような錯覚にとらわれてしまう。恐怖の極み、恐ろしいの一言。
機体はパイロットの努力で確実に水平飛行しているはずで、常に風に向かって必死に機長、コーパイが操縦桿を握っているのが想像できるのだが。「これは何なんだ」と叫んでいる。こんな小さな飛行機は、少しでも操縦を間違えれば、吹き飛ばされてしまう感じがしている。
〔パイロット諸君!頑張ってくれたまえ〕というような寅さんの台詞が頭に浮んだがそれどころではない。つづく (松栄孝)
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