2007年6月9日付け
鯨の尾身(オノミ)は真にうまい。尾の近くの肉で脂が乗っている。冷凍を半分ほど解かして刺身にし生姜醤油で口に入れると蕩けるような珍味で酒の盃は、もう一杯と重なる。この美味な鯨肉はかなり高い。ナガス鯨の極上は100グラムで1万円超だし、イワシやミンクだと2千5百円ほどだが、あの食文化は日本が生み育てたものと見ていい▼クジラの鍋物や龍田揚げもだが、オノミとまではいかなくとも、好みとしては刺身がいい。戦後の食糧難の頃は、クジラを良く食べた。薄く切って醤油味にしてからのビフテキ擬は子どもの人気だったし、野菜と豆腐を入れての鋤焼き風に舌を鳴らしたのも懐かしい。その後、クジラのソ―セ―ジやベ―コンなどの名物が登場し、貧しくも栄養失調な書生らを喜ばせた▼あの時代は捕鯨船隊が南氷洋に向かい、ある砲手が何頭仕留めたかの話を愉快に聞いたものである。そうこうするうちに―鯨の捕りすぎが問題になり國際捕鯨委員会(IWC)が結成される。これは、絶滅を防ぐために捕鯨の規制を実施することを協議するための機関であったのだが、いつのまにか動物愛護の精神が強くなり「鯨を殺すな」に変質してしまい捕鯨諸国が困惑しているのが、現状なのである▼日本が提案した「沿岸捕鯨」も否決されてしまい、政府代表団は「脱会も視野」と憮然たる表情でいる。IWCを脱会し新しい機関を組織するの主張であり、賛成し支持する国々も多い。愛護は結構だけれども、鯨が増えすぎエサとして小魚を食べ過ぎるの有力な意見もあり、ここは冷静で科学的な根拠に基づいた議論が欲しい。(遯)