2007年7月25日付け
鈴木悌一の生き方に感動して――。サンパウロ人文科学研究所による百周年記念事業『人文研研究叢書』の第六弾となる「鈴木悌一―ブラジル日系社会に生きた鬼才の生涯―」(五百部)がこのたび完成、人文研で販売(五十レアル)されている。
同研究所の鈴木正威理事が六年の歳月をかけた労作。学術、文化両分野に大きな業績を残した鬼才、鈴木悌一の人生が約五百ページに凝縮されている。
本書は十章に分かれており、神戸一中時代からアリアンサ移住地での開拓生活に続き、第三章では、ポルト・アレグレの神学校に学んでいた時代のもので現存する唯一の日記『山庵雑記』を解説、青春時代の悌一の心にひだに迫る。
「崩し字の書きなぐりの上、ラテン語、フランス語が縦横に入り、東西の詩が原文で入ってくる」日記は、解読に相当の苦労を要した(鈴木理事)が、〃奮騰する情念〃に冷徹な分析を加えている。
脇坂勝則人文研顧問は、悌一が東山農場支配人だった山本喜誉司氏と共に行なった資産凍結解除運動を「露骨な反日感情があった当時の政界との交渉の困難さは、今では想像できないもの」とロビー活動におけるその粘りを高く評価、本書ではブラジル政府、マスコミと渡り合う悌一の姿が活写されている。
日本の総理府統計局が「移住者の実態調査としてこれほど詳しい正確なものが世界初」と礼賛したという六四年完成の「ブラジル日系人実態調査」では、委員長として日伯を股にかけ活躍。
実態調査の技術的な面の指摘だけでなく、「後日成功の暁は青柳(料亭)で酒池肉林といきましょう」の台詞で邦字紙記者を魅了したエピソードも織り込まれている。
サンパウロ大学に日本文化研究所を設立、コロニア文学、聖美会の会長を歴任するなど、文化面でも大きく貢献した。
ブラジルで開花したそのマルチな才能だけではなく、コロニア公然の秘密だったという隠し子にも触れるなど、その私生活にも大きく踏み込み、長女妙を始め、家族に行なったインタビューも収録、まさに鈴木悌一の評伝決定版だ。
当時のブラジル、コロニアを解説しながら、鈴木悌一という異能に光を当てた鈴木理事は、「経済的成功に背を向け〃伝道の精神〃に生きたエリートが移民の歴史を刻む仕事を成し遂げたことを後世に残したかった」と執筆の動機を語っている。
来月10日に=刊行パーティー
刊行記念パーティーは来月十日午後六時から、文協ビル二階の貴賓室で悌一の弟吾一、長女妙、次女華の出席を予定、カクテル形式で行なわれる。詳しくは人文研(電話=11・3277・8616)まで。