2007年8月8日付け
【ヴェージャ誌二〇一九号】政治科学が専門のスチュアート・ギウマン博士は、世界各国における汚職の特徴と防止法を研究している。今回はブラジルを訪れ、違法資産の取得と違法手段を提供し共犯者となる人間をいかに絶つかを指導する。同博士は、国連の汚職防止グローバル・プログラム主任を務める。汚職を断念させるため、権限悪用を監視する独立機関を設けることを薦める。始めは誰も気に止めない些細なことから始まり、一国の経済と政治を根本から腐敗させるのが汚職だ。汚職の被害者は国民だが、直接の被害ではないから意識されない。
次は同博士との談話。
【汚職が定着する国の共通点】第一に汚職は、独裁政治の遺産といえる。独裁政権終焉の後、必ず汚職の構造が残る。東欧では汚職文化が意識できない形で棲息している。国家経済の管理度合いに従って汚職の度合いと方法が異なる。
高官レベルで汚職が行われると、規模も大きい。第二に公団とは汚職の構造であり、無数の公金横領の方法が用意されている。第三に公務員が多い程、汚職の構造も大きい。公務員が多い国の公務員とは、公僕ではなく失業対策である。だから薄給で採用され、少額の不正は看過される。
厳密にいうなら、汚職がない国はない。だから、どのレベルから汚職と呼ぶかだ。ブラジルは、いくら公金を横領しても立件されなければ看過され、立件されると一銭でも有罪になり刑を科される。汚職防止には、汚職は歩が悪いことだと認識する環境づくりが必要である。そして汚職発覚の結果を見せる。
【汚職防止のメカニズム】まず汚職防止の実働部隊を中心に、キャンペーンの環を広げる。それなくして、どんなプログラムも徒労だ。次に周到な診断方法を編み出すことが基本になる。汚職は常に新手が現れるもの。
例えば南アフリカでは裁判所が汚職の巣と思われた。住民の半数は裁判官にワイロを払い、有利な判決を得た経験があるといった。よく調べて見ると、汚職というより裁判制度の不備が原因であった。
被告人の多くは、証拠物件やアリバイという概念がない。カネを払って裁判を棄却にしてもらう。ブラジルでも汚職防止のための法整備に多額の投資は困難だが、現実に即した裁判制度の採用はできる。不罰特権など歴史的伝統と民族的習慣が問題なのだ。
【政府監査庁との共同作戦】今、監査庁技官に汚職の摘発法を指南している。特に金融関係へ重点を置いた。ブラジルでは汚職の足跡は発見できても、汚職の組織図が分からないので効果は出ていない。次の段階として汚職の被害が大きい、ブラジル経済の泣き所の研究である。
汚職摘発を活かすためには、戦略が必要だ。そのため連邦政府と地方自治体、民間企業、民間団体の協力体制をつくる必要がある。現在は野党が、政府攻撃の材料に汚職摘発を行っているだけである。また国民の汚職防止への関心は低い。民間企業が、汚職の存在が仕事をやり易くすると考えるのも間違いだ。
【汚職と経済の関係】多国籍企業は、ワイロを前提とした企業経営をしないし、ライバル企業がワイロで対抗するような国へ投資をしない。そのため汚職は外資導入の妨げとなる。汚職が管理されずに野放しの国は、民主政治の基盤も脆弱である。
政府に対する国民の信用が低い国は、いつでも専制政治が行われる危険性がある。専制政治には、汚職が感知しにくい形で寄生する。専制政治では、何でも政府の方針を正当化する。最高権力者が介在することも珍しくない。国民を巻き込み、汚職を塗布することもある。こうなると、汚職が社会悪として市民権を得ることもある。
その他の犯罪に政府の要人を共犯者として巻き込み、麻薬密売や人身売買、組織犯罪、テロ活動と汚職が姿を変えている。空港警察がワイロを受け取ってハイジャックを看過し、小遣い稼ぎの汚職がまん延する。生活能力がない人は、名義を賃貸し、共犯者になって生活を見てもらう。
ブラジルでは、刑務所職員や警察官にワイロが浸透している。小銭のワイロは始末が悪い。監督官にビール一杯を馳走することが、汚職の始まりといえそうだ。汚職は、殺人のように犠牲者が目の前に出ない犯罪である。被害者は国民全員だ。