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移民化するデカセギたち=根を張る在日ブラジル人社会=連載《第1回》=実は33万人が日本在住=経済規模は推定6千億円?!

2007年8月24日付け

 来年百周年を迎えるブラジル日系社会の一部が日本で形成した在日ブラジル人社会は、年々その規模と質を増している割にその情報が伝わらない。一九八〇年代後半から始まったとされるデカセギムーブメントはすでに、二十歳の齢(よわい)を数える。デカセギ子弟の大学卒が生まれ、「在日ブラジル人一世」と主張する日系三世もおり、独自の文化まで誕生するなど明らかに新局面を迎えている。七月第三週に行われた二つの訪日就労者に関する講演会では、彼らは「一時的な出稼ぎ」ではなく「移民労働者」なのだという内容が、期せずして共に基底となった。その講演内容と最近の関連記事を組み合わせ、一本の連載として紹介する。(※デカセギ=ポ語dekasseguiからのカタカナ語=日本への移民労働者の意)
 佐々木リカルド弁護士によれば、〇六年末現在で、在日ブラジル籍者数は三一万二九七九人。加えて日伯二重国籍者が約一万八〇〇〇人もいると推測しており、合計では三三万人とコミュニティ規模を紹介した。就労人口は約二九万人で、うち失業者は少なくとも一万三二〇〇人以上いるという。
 日本で刊行されているポ語雑誌『alternativa』の県連日本祭り頒布版によれば、米州開発銀行(BID)の発表では〇六年の日本からのブラジルへの送金総額は約二六億ドル(約三〇〇〇億円)にも達する。〇〇年は一三億ドルで年々、増加傾向にある。
 同データの〇五年送金額を州別に見ると、最大はサンパウロ州で一二億五〇〇〇万ドル(約一四七五億円=全体の四八%)、次がパラナ州で六億五〇〇〇万ドル(二五%)、三番目は南マット・グロッソ州で一億ドル、さらにパラー州の二五〇〇万ドルが続く。残り諸州の合計が一億七五〇〇万ドルだ。
 この数字から分かることは、日系人口の七割を占めるサンパウロ州への送金が実は全体の半分しかなく、多くの州にまたがっている点だ。デカセギムーブメントがいかに全伯的な範囲に拡大しているかが推測される。
 一時期、日本の学者から「定住化傾向が進めば、母国への送金はいずれ減少し、コミュニティ内での消費に回される」との推測も出されていたが、今もって人口と共に送金額も増え続けている段階にある。ブラジルの留守家族との絆はまだまだ健在だ。
 送金額に倍する金額を彼らが稼いでいると仮定すれば、コミュニティ内の経済規模は六〇〇〇億円とも単純計算できる。残りは税金のほか日本国内での消費に回されているのも間違いない。わずか二十年ほどの間に、巨大な経済規模を持つ在日社会が生まれた。
 ブラジル人支援をするNPO団体SABIJA(本部=東京)代表、毛利よしこシスターによれば、在日コミュニティには八六八軒ものブラジル人商店があり、ポ語週刊新聞二紙、ポ語テレビチャンネル一局、雑誌などもあるという。
 その一方で、日本社会側の教育関係者や学者、ジャーナリストからの視点は、近隣との騒音問題、ゴミの分別問題、デカセギ子弟の教育問題などに焦点をあて、〃深刻な問題〃として取り上げることが一般的で、定住外国人への否定的なイメージを固めようとしつつあるかのようだ。
 ただし、コミュニティ側には〃深刻な問題〃との認識は薄い。そうなら滞日者の数は減ってもおかしくないが、現実には世界第二の経済大国は魅力的であり続けている。在日ブラジル人社会の人口は増える一方であり、永住査証を取得するものは年々、一万人を数える。
 どこかで認識がズレている可能性がある。在日ブラジル人たちの現状をより実情の即した形で認識し直す必要があるのではないか。
 その焦点となるのは「彼らは移民なのか」という点ではないか。今回の二つの講演会では期せずして、そのことを関する情報や意見が次々と述べられた。
 これは、どう考えたら良いのか。(つづく、深沢正雪記者)

 ■二つの講演会概要■

 汎米日系人大会の分科会として七月十九日、サンパウロ市の文協ビル内で国外就労者情報援護センター(CIATE)主催の訪日就労者に関する講演会が行われ、佐々木リカルド弁護士、毛利よしこシスター、中川郷子心理科医の三人が話し、五十人以上の聴衆が集まり、熱心に質疑応答が行われた。
 さらに同二十二日には県連・日本祭り会場内講堂で、ABCジャパン(本部=横浜)とブラジル神奈川文化援護協会が共催する講演会「在日ブラジル人二十年の歴史」が行われ、教育者の篠田カルロスさん、日本で大学を卒業した宮ケ迫ナンシー里沙さん、社会学者のアンジェロ・イシさんらが演台に立った。国際交流基金が協賛した。