2007年8月25日付け
膨大な送金をブラジルへ送る在日ブラジル人社会だが、ブラジル人支援をするNPO・SABJA(本部=東京)の代表毛利よしこシスター(70、二世)にいわせると「経済難民」だという。
彼女の日本滞在歴は二十一年と長く、在日二世の先駆者的な人物だ。久里浜少年院などに通って相談を聞いたり、独自の青少年育成事業を行っている。
シスターは、インスティトゥト・リオ・ブランコにおけるジョアン・ペドロ・コレイア・コスタ氏の論文を引用し、「ブラジルに確定的に戻る意志はあるか」との問いに対し、「はい」が五三%、「まだ分からない」が三五%、「いいえ」が一一%、白紙・無回答が一%だったと紹介した。この論文は在日ブラジル人一五八七人に対して調査した結果だ。
ここから分かるのは、少なくとも一一%は、日本に永住しようと明確に決心している点だ。さらに推測するに「まだ分からない」の三五%の半分約一八%が永住に傾いたとしたら、合わせて二九%、全体の約三分の一(一一万人)が日本に残る可能性がある。
同論文によれば、最も多い日本のビザは一時滞在ビザで七二%、次が永住ビザで二三%、二重国籍が四%、白紙・無回答が一%となっている。
永住ビザはここ数年来、約一万人ずつ増えており、定住化傾向を如実に示す数字と言われている。
シスターに、永住ビザが年々増えている理由の説明を求めると、「日本国内での滞在延長手続きですら、ブラジルの無犯罪証明書が必要とされるようになり、ビザへの不安が高まっている。これ以上、厳しくなる前に、更新する必要のない永住ビザに切り換えてしまおうという人が多いんじゃないでしょうか」と現実的な事情を強調した。
永住ビザを持っていれば、ほかの人が延長申請する時に保証人になることができるなど、家族に一人、永住ビザ者がいるだけで安定度が増すようだ。
それに加え、日本で住宅購入希望者が増えていることも反映している、という。永住ビザを持っていれば住宅購入ローンを組める。
「では、必要に駆られて永住ビザを取得しているだけなのか」と問うと、「中には日本での生活が気に入っている人もいる。特に子供が日本の学校に適応して、ブラジルに帰りたくないといっている家庭とか」と付け加えた。
社会学者のアンジェロ・イシさんに同じ質問をすると「日本で家を買うのがステータスになっている。家を買うには永住ビザがいる。いつか家を買いたいという、いわばマイホーム予備軍が永住ビザに切り換えているのでは」という興味深い考察を披露した。
現実的な理由にせよ、マイホームの夢のためにせよ、この永住ビザ所持者が年々増えていることは、いずれ大きな意味を持ってくることを予感させる。
仮に、この永住ビザ二三%と二重国籍四%という合法的に日本に定住できる資格者を合計すると二七%になり、全体の四分の一に相当する。
「三分の一から四分の一という数字が、日本に永住する可能性が高い人たち」と予測しても、正解から遠くないかもしれない。
「経済難民」との表現はあまりにも否定的なニュアンスが伴う。もっと広い範囲を表す「移民労働者」=「より良き生活を求めて国境を越えて移動する労働者」の一部と考えた方が現実に近いようだ。
日本の場合は、一九九〇年の入管法改正で日系三世までの滞在を合法化したため日系人が多い。しかし、より良き生活を求めて先進国へ移動して定着し始めているという本質は、米国や欧州で起きていることと変わらないと見た方がいいのではないか。
(つづく、深沢正雪記者)
移民化するデカセギたち=根を張る在日ブラジル人社会=連載《第1回》=実は33万人が日本在住=経済規模は推定6千億円?!