2007年9月1日付け
【エスタード・デ・サンパウロ紙八月二十七日】ファベーラの住人というと一般的に生活に困窮し、住居を失って難民の如く辿り着いて共同生活を営むというイメージがあるが、今それが変貌しつつある。ファベーラといえばリオデジャネイロ市の名物の一つとなっているが、住民の努力や当市局のインフラ整備で生活環境が整い、住人に言わせると、麻薬組織の抗争や警官との攻防により、いつどこから銃弾が飛んでくるか分からない不安を除くと、快適な生活の場となっているという。リオ州立大学の調査班がファベーラ住人六六〇人に意識調査した結果、六五・四%が今の住居から移転することを拒否した。そのファベーラへの愛着の実態を探ってみた。
リオ市北部のファベーラ・フォルミガに住むニウザ夫人(55)は、昼食の用意時に下に住む隣人の主婦から「にんにくを切らしたので分けてくれ」と声をかけられ、台所の窓から数かけらを投げ与えた。ニウザ夫人はこれがここでの日常での生活で、助け合って共同生活をしていると説明する。
階下に広がる高級住宅を「アスファルトの住人」と呼び、日常の挨拶さえ交さない彼らを「人間性に欠ける」と批判している。その上でファベーラから引っ越しすることはないと断言する。もし眼下の高級住宅を貰うようなことになったら即座に売っ払って、ここでの生活を続けると、こだわりを見せている。
ニウザさんは十一人兄弟とともにここで生れ育ち、現在子供四人の家族と妹四人の家族も住みつき、楽しい毎日を過ごしているという。
実態調査を行った州立大学によると、ニウザさんの生活はファベーラの典型的な生活様式で、麻薬抗争などの問題を乗り越えて共同生活の絆を深めていると指摘している。
調査は市内の主だったファベーラの住民六六〇人を対象に行った。それによると、住人の六五・四%は転居する意志はなく、今の共同生活を続けると答えた。リオ市内の別な場所に転居したいが一八・四%、同区内の別な場所が八・八%、他州への転居が三・六%となっている。リオ市を離れたいとしたのが、わずか七%で、全市民の一五%の半数となっており、「シダーデ・マラビリョーゾ」のファンの片鱗を示した。
市当局のテコ入れでインフラ整備も進み、ファペーラは地方都市のインフラにひけをとらないまでに改善された。電気は八五・五%まで普及し、上水道は八四・五%、下水道は八九・六%、ゴミ回収は五三・二%、定期回収は四五%になった。
家庭内の電化はカラーテレビが九七・一%、ラジオは九四・四%、冷蔵庫あるいはフリーザが九四・一%、ビデオあるいはDVDが五九・二%、携帯電話が五五・二%、洗濯機が四八・四%、電子レンジが一九・四%、エアコンが一三・七%、コンピューターが一一・七%、自家用車が九・九%、バイクが三・八%となっており、文化的生活をエンジョイしている向きも多い。
いっぽうでサンパウロ市当局によるとサンパウロ市内には一五三八ヵ所のファベーラが存在し、三万平メートルの面積に二〇〇万人近くがバラック生活をしている。このうちビラ・プルデンテ区のファベーラ住民の平均月収は一七四・八〇レアルに対し、ジャルジン・アエロポルト区のファベーラのそれは二一〇一・四〇レアルと格差が大きい。にもかかわらず調査によると購買力は、さほど変わりがないという。
ジャルジン・アンジェラ区では市内最高の一五三カ所のファベーラが存在するが、その住民の九二%が冷蔵庫を有し、三一%が洗濯機を、一五%が自家用車を保有している。東部エルメリノ・マタラゾ区のファベーラになると、九八%が冷蔵庫、一六・七%が自家用車、七・五%が家庭内にコンピューターを有している。