ホーム | 日系社会ニュース | シャーガス病=留意しよう=30~60歳代心臓気になる人=以前サシガメと接触した人=デカセギにも潜在的感染者

シャーガス病=留意しよう=30~60歳代心臓気になる人=以前サシガメと接触した人=デカセギにも潜在的感染者

2007年9月4日付け

 三十~六十代で心臓が気になる人は要注意――。長期間の慢性期間をへて、突然、心臓疾患や歩行困難、消化器系の疾患などを発症し、死に至ることもある熱帯病、シャーガス病。蚊を媒体にするデング熱に比べて認知度がひくい病気で、吸血昆虫のサシガメ(バルベイロ)が媒体となって人体に感染する。デカセギ日系ブラジル人も潜在的な感染者と考えられ、日本での輸血感染を危惧する声もあがっている。先ほど援協が実施した奥パウリスタ、南マットグロッソ、奥ソロカバナ方面への巡回診療に、同感染病の研究を長年続ける三浦左千夫さん(62、慶応大学医学部熱帯医学寄生虫学教室助手)が同行。八月三十一日に来社し、各移住地の日本人・日系人を対象にした同病の検査結果や特徴などを報告した。
 現在、日本で実際に同病の感染が示唆される患者は十三人いると三浦さん。日本国内でも突然死につながった例もすでに二例あるが、「日本ではシャーガス病を詳しく知る医者はきわめて少ない。病気を発症しても十分な診断治療は期待できない状態にある」と説明する。
 今回の巡回診療は八月十八日から二十七日まで、ドラセーナ市、トレス・ラゴア市、プルジデンテ・プルデンテ市など六カ所で実施。個人的に三浦さんが訪れたパラナ州東北部のマリンガやロンドリーナ市を含めて、計五十一人の日本人・日系人に抗体検査をおこなった。
 その結果、パラナ州東北部で四人がシャーガス病に対して陽性、また家族知人にシャーガス病で既に亡くなったと答えた人が八人いた。また、以前シャーガス病と診断されたが現在も健在な人は四人、幼少期などにサシガメとの接触を肯定した人が六人いた。多くの感染者が無症状で過ごす場合がほとんどで、「体が弱ったときに症状が出てくることがある」。
 三浦さんによれば、幼少時や移住当時の家屋構造がヤシの皮や藁葺き、土壁や木造の家に暮らした経験がある四十~六十代の人は注意が必要。とくにサンパウロ州ではモジアナ線、ノロエステ線一帯、パラナ州ではバンデイランテス、カンバラ、サンターナ・ド・イタラレー、ロンドリーナ、マリンガなど同州北部の日系移住地の出身者は感染している可能性もあるという。
 また、ロンドリーナ州立大学医学部のシャーガス病外来をうけた患者の居住経歴を調べると、北パラナの日系移住地周辺の出身者がほとんどだった。その中には輸血、先天性、移植による感染例もあった。
 今回の調査にあたり、三浦さんはパラナ州保健局疫学部で、ロンドリーナ市から十二キロほど離れた農場の畜舎周辺から捕獲した大型のバルベイロ幼虫の実物をみた。「WHOではシャーガス病はすでに撲滅したと言うが、今でもブラジルにはサシガメの生活環がのこっている」と強調する。
 ここ数年でもS・カタリーナ州のサトウキビジュース、アマゾナス州でのアサイジュースの生成途中で、サシガメの糞が混入し、その飲用によって感染して死亡したケースもあった。
 このほか、潜在的な感染者でありえる在日ブラジル人の就労や定住化がすすむなか、三浦さんは「静岡県や群馬県、愛知県などの自治体や企業は彼らを対象にした定期検診などで、シャーガス病の検査をするべき」と主張。また「感染の疑いのある人は絶対に献血や輸血をしないでほしい」と呼びかけている。
 【シャーガス病】
 ホンジュラスにおけるJICAのシャーガス病対策プロジェクト報告書(平成十五年)を引用すると、土壁や藁葺き屋根でできた家に住むサシガメが人体の吸血中に排便し、糞便の中にいる原虫トリパノソーマが人の粘膜や傷口などから体内に入ることで感染する。
 急性期には発赤と痛みを伴う腫れができ、全身症状としては、発熱、リンバ節炎、肝・脾腫等が見られる。急性期症状は数週間~数カ月で消失するが、心筋炎を起こすと急性心不全で約一〇%が死亡する。
 慢性期には表面的に無症状期間が数年から十数年も続くが、心筋障害が現れると、発病後数週間から数カ月で死にいたる。慢性期になると治療法がなく、心臓疾患などで感染後、十~二十年後に死亡するという。中南米ではマラリアに次いで深刻な熱帯病とされ、二千万人以上の患者がいると推定されている。