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パ国の作文コンクールで=日本の子育ての伝統を見る

ニッケイ新聞 2007年9月11日付け

 【イグアスー発】パラグアイ日本人会連合会主催で行われた〇七年度の全パ作文コンクールの結果が発表され、中学総合の部の優秀作品四点の対象者全員がイグアスー日本語学校の生徒たちであった。
 今年の応募総数は二百三十七点で入賞が四十五点、その中でイグアスー日語校生徒の作品十四点が入賞した。中学総合の部の優秀作四点は、一年生の部の一位が嶋倉みどりさん(三世)の「強く生きる」。二年生の一位が佐藤唯さん(三世)の「幸せの中で見失った事」、三年生の一位が大山しおんさん(二世)の「主役は私たち」、そして、三年生の二位が植村秀一くん「三世」の「父の説教」であった。
 小学五年生の部でもイグアスー日語校の嶋倉あすかさんの「平和を願って」が一位に輝いた。「幸せの中で見失った事」を書いた中学二年生の佐藤唯さんはこう説明する。「先生に連れられて同級生のみんなと一緒に移住地の近くにあるインディヘナ(インジオ)の部落を訪問して、今でも貧しい暮らしをしている姿を見て驚きました。両親や祖父母にも同じような貧しい時代があった、という話を聞いていたので、二つのことが重なりあって頭に浮かびました。日系人農家で働いているパラグアイの人々がいるからこそ、自分たちの移住地がここまで発展してきています。そして、親たちの苦労の上に今の幸せな自分たちがいます。もう一度、自分たちの生活態度を見直すことが必要なのではないかと思うようになりました。なぜって、この移住地にいる私たちがパラグアイ人、ブラジル人、インディヘナといつまでも仲良く暮らす『所』であって欲しいもの」。
 毎月発行されている「学校だより」八月号の中で堤和子校長(東京農大卒・青森県)は「作文指導は基本的には各学年の担任に任せられている。特に好成績だった中学部生徒の作文内容をみてみると、すべてが自分の周囲に起こっていることを題材にしながら、それをきっかけにして、さらに深くみつめる、考える、という順番をたどっている。『自分の心と深くむきあい、考えを深める』ということと同じで、中学生の成長にとってはむしろ大切なことではないかと思う」と述べている。
 学校での指導、家庭での教育、それに移住地を取り巻いている豊かな自然環境が綾なして感性豊かな子供たちを育んでいる現実が輝かしい成果を生んだ、と言えそうだ。
 日本で最近成立した新教育基本法は家庭教育について、親は「子供の教育について第一義的責任を有する」と真正面から書いている。「親学(おやがく)」という「親となるための学習」まで登場している。「親学」を推進する協会までできている。
 去る六月に発表された教育再生会議の第二次報告は「親学」という表現を避けて「親の学びと子育てを応援する社会へ」と記述している。もともと、親が子供を育てることは当たり前のこととして、不文律のまま踏襲されてきたのが日本の伝統だったはずである。最も基本的な日本の子育ての伝統が南米の移住社会で踏襲されてきている一つの明るい例をパラグアイの作文コンクールで見ることができた。